華詞―ハナコトバ―5の花-2
「はいはい、私だけ先生に熱あげてないからくやしいんでしょ?」
「え?そんなことないよ。うーん・・・でもそんなことあるかな。」
相変わらず害がなさそうな笑顔をこちらに向けてくるのでついつい気が緩みそうなのをぐっと抑える。
「でましたね、ナルシスト発言。わたしは騙されません。」
そう言ってレポートにシャーペンを走らせる。
先生にこれ以上見つめられたら心臓が口から出てもおかしくない。
本当はもっと話したいし一緒にいたいけれど、私は思っていることがすぐに顔に出てしまうから長居するのも危険なのだ。
「石井さん、ひどいなぁ。そんなに僕とデートしたくないんだね。」
先生はしゅんとした表情を浮かべながらレポートのチェックをし始めた。
先生の言葉をスルーしつつ、私はレポートを書いていく。
別にデートしたくないわけじゃない。むしろデートができたらどんなに幸せだろうかと思う。
だけど先生が私に本気になることなんてないだろうし、鳥井先生ファンが黙ってはいないだろうと思う。
小心者のわたしには到底無理なことなのだ。
レポートはほぼ完成しているため、チェックしているふりをしながら語尾を変えたりして少しでも先生をいる時間を長くする。
だけどそれには限界があるというもので、先生がレポートのチェックが終わり、私の方に視線を向ければ同じところを書いては消してを繰り返すことも難しくなる。
「・・・終わりそう?」
先生は私の前に座って微笑む。
それだけで心拍数をおかしくさせるには十分な効果がある。
「はい。なんとか。」
声が上ずらないようにできるだけゆっくりと話す。
「そっか。良かった。石井さんだけ単位あげられなかったらこまるからね。」
先生は私のレポートを見ると、上出来だね。と言い、名簿のレポート欄にチェックと入れた。
「おつかれさま。次は提出日までにしっかりやってくるように。」
そういうと、先生は回収したレポートをファイルに挟んで教室を片付けはじめた。
「先生、あの噂って本当なんですか?」
「噂って?」
「無遅刻無欠席プラス課題提出日厳守でデート1回。」
「あ、その噂?うん、本当だよ。」
先生は当たり前といったようにすまし顔で答える。その平然とした態度に思った以上に傷ついている自分に気がついた。
「そうなんですか…。でもそうゆうのって先生としてよくないんじゃないですか?」
「石井さんはそう思うの?…それなら石井さんがデートしてくれる?」
先生はまたいたずらっぽく笑いながら私に答えた。なんだかそれが無償に嫌で、緊張とイライラでわたしの顔は赤くなっていた。