華詞―ハナコトバ―4の花-5
「染井さん、肌が白いから赤くなるとよくわかっちゃいますね。」
「そうゆう細川さんこそ…。」
なんだか一気に距離が近くなったような気がしてくすぐったい感じがした。
「染井さんって、お名前リョウっていうんですよね。珍しいですよね。」
「え?そうです。小さいころは女の子に間違われたりして大変でした。」
「あはは、そうなんですね。でも素敵な名前ですよね。苗字も“染井”で名前も糸へんだなんて、デザイナーになるために生まれてきたみたい。」
「そんな、大げさですよ。細川さんだって“細”は糸へんですよね。」
「はい、名前も絹代なので糸ばっかり。だから手芸屋にいるのかもしれませんね。」
「キヌヨ…かぁ…。名前も素敵ですね。」
染井さんはにこっと私に笑顔を向ける。今度は赤くはなっていない。
私はなぜかドキドキしてしまう。名前を呼ばれたからだろうか。
「あの、そろそろ私お店に戻りますね。休憩も終わる時間ですから…。」
ドキドキが収まらないので紅茶を飲み干し、染井さんの顔をあまり見ないようにソファから素早く立つ。
「待ってください。送っていきますから。」
「いえいえ、歩いて帰れますから大丈夫です。ごちそうさまでした。」
「大丈夫ですか?」
「はい。お邪魔しました。」
そう言って玄関まで歩いていくと、帰り際に染井さんがちょっと待ってほしいと言い、奥から持ってきた小さなポーチをプレゼントしてくれた。
ウェディングドレスの余り生地で作った試作品だという。
「あの、またよかったらお茶してくれませんか?迷惑じゃなかったら…。」
「はい。迷惑だなんて、そんな…楽しかったです。こんな可愛いものもいただいてしまって…。」
「よかった。ポーチはお礼です。あと、あの…絹代、さん…って呼んでも良いですか?…やっぱりちょっとずうずうしいかな。」
染井さんは少し頬を赤らめて頭をかいた。
「いえ…嬉しいです。私も綾さんって呼んでもいいですか?」
「…はい。お願いします!」
そう言った時にあなたが今まで見た中で最高の笑顔を浮かべたこと、私はきっと生涯忘れないと思う。
今日私はあなたの作ったウェディングドレスを着て結婚する。
背の小さい私に合わせてあなたがデザインしてくれた世界に一つしかないドレス。
あの時もらったポーチとドレスは、きっと一生の宝物になるよ。
染井綾
染井絹代
なんだか赤い糸が本当にあるって思えるような名前が私は本当に大好きだよ。
―おわり