華詞―ハナコトバ―4の花-3
「こんにちは。この前お願いした布が届くと連絡もらったのですが…。」
染井さんは控えを出しながら、ぺこぺこ頭を下げた。
「はい、ご用意できています。確認お願いします。」
私は紙で包んである布を出した。
染井さんは、ゆっくり点検するように布を見ると、にこっと笑った。
お会計を済ませると、10mある太い布をよいしょっと人を抱えるように染井さんは持ち上げた。
「あの、重たそうですけど、一人で大丈夫ですか?」
私は思わず声をかけてしまった。
すると染井さんはまた微笑んで、
「大丈夫ですよ。今日は車で来たんです。まぁ、歩けない距離でもないんですけどね。」
と店の反対側にある駐車場をちらっと見た。
それにしても重そうなので、車までご一緒しましょうか?と尋ねると、少し考えた後、申し訳なさそうにお願いしますと頭を下げた。
「本当にすみません。わざわざ運ばせてしまって…。」
「良いんですよ。今日は平日ですし、暇ですから。」
「それでも女性に重たい荷物を持たせるなんて申し訳ない…。」
「女性に」という言い回しが面白くて、私がくすっと吹き出すと、染井さんが“?”といった顔でこちらを見てきた。
「すみません。女性に重たい荷物をなんて、外国の方みたいだなって思って…」
「え?そうですか?あはは、外国に住んでた時期があったからかな…。」
「へ〜若いのに外国に住んでたなんて素敵ですね。」
「え?若くないですよ。先日26になりました。」
そういうと染井さんは私の方を振り向きながらにっこりと笑う。
「26歳…。私よりも年下か…。」
「え?細川さんって年上?てっきり学生さんか何かかと思ってました…!」
どうやら心で思っていたことが声に出ていたらしい。
染井さんは綺麗な緑がかった瞳を見開いて私の方を向いて一瞬立ち止まった。
「あ、はい。私は28歳です。お世辞言っていただけて嬉しいです。」
私もひるまず営業スマイルで返してみる。
「お世辞だなんてそんな…。すみません。なんか小さくて可愛い人だなぁって思っていたので…。」
染井さんは語尾がしどろもどろになりながら弁解する。
その姿がなんだか可愛くてまた吹き出してしまった。
そうこうしているうちに駐車場までつき、後部座席に布を置く。
「本当助かりました。わざわざお店抜けてきてもらって大丈夫でしたか?」
「こちらこそ、お買い上げありがとうございます。ちょうど私は休憩時間に入るところだったので大丈夫ですよ。」
「そうだったんですね。…あの、休憩時間ならちょっとお茶でもしませんか?」
唐突のお誘いに少しびっくりしつつも、私のミーハー心が少しだけくすぐられたのもあり、快くOKすることにした。
まるで英国紳士みたいに車の助手席にエスコートしてもらい、なんだか少しだけお姫さまになった気分で染井さんの車に乗り込んだ。
外国に住んでいたからなのか、染井さんはとても丁寧に私に接してくれる。