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華詞―ハナコトバ―
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華詞―ハナコトバ―4の花-2

「そしたらお願いしても良いですか?」
「わかりました。ではこちらの用紙にご記入お願いします。」

男はさらさらと綺麗な字で用紙に名前を書いていく。

染井 綾

そめい、あや…?
どうみても男にしか見えないので首をかしげて見ていると、顔をあげた瞬間目がばっちり合ってしまった。
色素の薄い緑がかった薄茶色の目にドキっとする。
少し不安そうな瞳がこちらをまっすぐに見ていた。

「あの、入荷したらすぐ連絡もらえますか?」
「わかりました。それではこちらの連絡先にお電話しますね。」

そう言うと、男はニコっと笑って帰って行った。
不思議な雰囲気の人だったな…。名前も女みたいだったし…。デザイナーとか、芸名みたいな感じなのかな。
記入してもらった紙をスタッフルームで見ていると、同期の洋子が覗き込んできた。

「さっき染井さんのオーダー受けてたでしょ?」
「え?洋子、知り合いなの?」
「知り合いっていうか、最近駅の反対側に出来たヌーヴェルマリエの事務所しってる?そこのデザインチームの人なんだって。」
「へ〜そうなんだー。外国の人?」
「え?まさか。背大きいけど違うでしょ。」
「だって名前もアヤって書いてあったし、目も緑っぽかったよ?」
「あはは、アヤじゃなくて、あれでリョウって読むんだよ。用紙にフリガナ書いてなかった?緑っぽいのは東北出身だからって雑誌のインタビューで見たことあるよ。」

用紙を見てみたが、フリガナの欄には記入がなかった。
洋子は絹代って天然っていうか真面目だよね〜とくすくす笑いながら、お店に出ていってしまった。
ヌーヴェルマリエといえば、今話題のウェディングドレスのブランドだ。
全てオーダーメイド式のドレスで、芸能人やモデルなどのファンも多いとそういえばお店にあるウェディング雑誌に書いてあったっけ。

だから10mも生地が必要だったんだ。
ドレスは見た目よりもかなり生地を使う。ましてやウェディングドレスになれば、トレーン(長い裾部分)のあるものはこれでもかというくらい生地が必要なのだ。

ウェディングドレスかぁ…

小さく息をはく。
今年で私は28になる。
まわりの友達がちらほら結婚していく中、私は結婚の「け」の字も見つける事ができない。
去年3年付き合った彼と別れてからは、忘れる為にせっせと仕事に集中してきた。
何人か友達が紹介してくれたが、しっくりくる人が未だに現れないでいる。

いつか私もウェディングドレスを着られる日が来ると良いんだけどね…

休憩時間が終わったので、今度はさっきより大きくため息をついてお店に戻ることにした。

染井さんからオーダーを受けてから5日後に工場から電話があった。
オーダーした布が出来たので明日中にはお店に届くとのことだった。
そのことを電話で連絡すると、明るい声で明日必ず取りに行くとの返事があった。
次の日の午後、染井さんは現れた。


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