COLOR-1
青い空。雲一つない空、晴天。
いつもの席に座り、いつものメンバーに囲まれて、やっぱりいつもの景色を眺めながら僕はぼんやりとしていた。
春を過ぎて梅雨に差し掛かる前のこの季節は暖かくて優しい。
その優しさに身を任せながら。
気持ちよく開け放たれた窓から僕の頬を、髪を、体を撫でながら流れていく風を感じながら。
『…―青い風』
梅雨の湿り気を少し含んだ風を感じながら僕は静かにつぶやいた。
…いつからだっけ?
僕が全てのものに色を口にするようになったのは。
“目に見えないものにも色があったら世界はもっと鮮やかになるの。”
“素敵だと思わない?”
記憶の底にこびりついた言葉がまた蘇る。
季節が何度巡ってもいつまでも君の言葉が、笑顔が離れない。
ねぇ郁美。
僕はもう22歳になるよ。
18歳の君を置いて…―
君の世界は今も鮮やかに輝いているのかな。
僕の見える世界はあの頃の白いままだよ。
時を重ねても僕の世界は色を取り戻さない。
『…―青い風』
僕はもう一度確かめるように、開け放たれた窓を見つめながらそっと呟いた。
涙は枯れた。
喜びも悲しみも感情が無くなった。
僕は何でここにいるんだろう。
「…っん…!やぁ…っ」
『…はぁ……っ』
何度も何度も腰を打ち付けながら額に汗が流れ落ちるのを感じる。
事務的な快楽が体を駆け巡る。
「…いぃのぉ…っ!たくみぃ…っ」
女が甘えた声で僕の名前を呼ぶ。
殺風景な部屋にその声は響き、息遣いと官能的な音が混ざり合う。
僕は一層激しく腰を打ち付けながら女の胸をもみしだく。
体は快楽を求めて動いているのに僕の頭は冷めたように女を見ていた。
快楽に揺れる表情。
僕の名前を呼ぶ声。
僕を求めてくる手。
しばらくすると女は甘い声をあげながら体を小刻みに揺らし、ぐったりと果てた。
僕はそれを見届けると女の上から無言で離れて上着を羽織った。
煙草に火をつけながらキッチンに向かい、冷蔵庫の中からミネラルウォーターを取り出してゴクリと飲み干した。
「…たくみ、またイケなかったね。」
『…だね』
体力が回復したんだろう、僕が部屋に戻ると女…―美香は体を起こしてこちらを見ていた。
美香は所謂セフレ。
大学に入ってから知り合ってしばらくして付き合ってほしい、と言われた。僕がそれを断ると美香は今の関係を望んだ。
僕はそれを拒む事もなく受け入れ今に至るというわけだ。
けれど…僕は美香との交わりでイク事はなかった。
僕は原因を知っている。
でも美香には話さなかった。
美香もそれを深く聞こうとはしなかった。
そして僕は時々思う。
どうして僕はここにいるんだろうと。
ここにいるべきなのは僕なんかではなく君なんじゃないかって。
考えたってキリがないのはわかってる。
どんなに考えても想っても君はもうこの世界にいない。
わかってるんだ。
だからこそ歯痒くて、どうしようもなくて奥歯を噛み締める。
ねぇ郁美。
もうすぐまた夏がやってくるよ…―。