COLOR-7
ベットが微かに軋む音、僕らの息遣い、雨の音…
僕たちは傷を舐め合うように癒すようにお互いを愛撫しあった。
それは酷く悲しくて、酷く甘い儀式のようだった。
「…たくみ…好きだよ」
『…春菜』
春菜の手が僕の頬を包んで…その手があまりにも温かくて僕は泣きそうになった。
ゆっくりと春菜の中に入っていく。甘美な音がして快楽が僕たちを支配する。
その音がだんだんと増し、僕たちの息遣いと調和して部屋に広がっていった。
春菜をきつく抱きしめて僕は快楽の絶頂に近づくのを感じながら…春菜の中に今まで溜め込んでいた全ての感情を吐き出した。
肩で息をしながら静かな部屋で二人見つめ合った。
そして裸のまま、肌と肌を重ね合わせたぬくもりを逃さないようにくっついて、また優しいキスをした。
『…俺、奇跡なんかなって思う』
煙草から立ち上る煙を見上げながら僕はぽつりと呟いた。
「…何が?」
『春菜と出会った事。』
僕は間違いなく郁美と出会った事が奇跡だと信じている。
あの頃…全てが幸せで僕は本当に幸せだった。
郁美と一緒にいる事が僕の全てだった。
郁美を失って、僕の世界の色が失う事になってしまったけれど、僕は幸せだった事に変わりなかった。
けれど…ずっと戻らないと思っていた色が僕の世界を色づき始めたんだ。
…春菜と出会って。
これも奇跡だと思ってる。
ただの偶然かもしれない。
でも聞いた事あるんだ。
世の中には偶然なんてない…全部必然なんだって…―。
これを教えてくれたのは郁美、君だったっけ。
あの頃、君の死が必然なんて信じたくなくて、君の言葉も信じなかった。
でも
今なら信じれる気がする。
春菜と出会った事も運命だと思うから。
二人で過去を乗り越えられるように神様が引き合わせてくれたんだって。
笑われてもいいよ。
結局…
必然とか…偶然だとか…
運命みたいなのはあとづけであいまいなものだけど…。
僕はこれを運命にするよ。
僕たちが幸せになるために、乗り越えるために出会ったんだって胸を張って言えるように。
「郁美さんの事…忘れなくていいからね…。全部覚えて…それを抱えて行く事が残されたたくみの使命だから…」
僕の過去のひとしきりの告白に春菜は僕の手を強く握ってそう言った。
大丈夫。
郁美の事が大好きだった事
愛してやまなかった事
それが僕の全てだった事
決して忘れない。
この想いが淋しがり屋だった君に届くといいな…―。
窓をあけると雨の香りがした。夜が明け始めた景色は太陽の光りが雨の雫に反射してキラキラと輝いている。
その光景はひどく綺麗で様々な色が際立っていた。
“目に見えないものにも色があったら世界はもっと鮮やかになって…素敵だと思わない?”
郁美の言葉が蘇る。
僕は部屋に飾られた鮮やかな花とベットで寝息を立てる春菜を見つめて微笑んだ。
テレビの朝のニュースの天気予報からは僕の地域の梅雨明けを知らせる声が聞こえる。
もう一度窓の外に視線を戻す。夏は目の前に迫っている。
けれどもう色を口にする事もしなくていいんだ。
僕のカラーを取り戻した世界が静かにゆっくりと輝き出した…―。
Fin.