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COLOR
【その他 官能小説】

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COLOR-5


「『乾杯〜』」
僕が作った簡単な料理を囲みながら僕たちはビールを飲んだ。
春菜はさっき見せた寂しそうな笑顔なんて無かったかのように沢山喋った。
学校の事、友達の事、バイトの事。
春菜は話し上手でこれならモテるのもわかるな、と思った。
ビールを飲むペースもだんだん早まり、空いたいくつかの缶が辺りに転がっていた。
酔いもほどよく回っている。
話しが落ち着いた頃、僕は不意に春菜に尋ねた。
『…彼氏、なんで作らないんだ?』
春菜は僕が何度も言うようにモテていた。けれど春菜は僕が知っている限りでは何回かの告白をことごとく断っていた。
「さぁ…ろくなのがいないから…かな?」
僕の質問に春菜は困ったような笑顔で答えた。
酔ってきたのだろう、頬が赤く染まっていた。
『何だそれ。理想が高いのかぁ。』
「そんな事はないけど…じゃぁたくみは?何で特定の彼女作らないの?」
『色々だよ。今は“特定じゃない”女もいないよ。』
やや真剣な目付きの春菜に僕ははぐらかすように答えた。
「…たくみ」
いつもならここで終わる話も今日は違った。
春菜の真剣な眼差しが僕を捉らえていた。
僕はその眼差しにドキリとした。
「…何かあったんでしょ…」
僕の心を揺さぶるようなそのストレートな春菜の問い掛けに僕は何も言えなくなってしまった。
友達でさえも気付かなかった僕の過去。
春菜はそれに気付いていた。

『…別に』
「あたしにはわかるよ。…やっぱり話せないかな。」
僕の言葉を遮るように発した春菜の言葉には同情も哀れみも含まれない優しい声だった。

僕は誰にも話せなかった事を春菜に話すべきなのか迷っていた。
春菜なら…そう思っている自分もいた。


迷っているのが春菜にもわかったんだろう、春菜は静かに話し出した。
「…話せないなら無理強いはしない。でもたくみ…気付いてるかもしれないけど…あたしたくみの事が…好きなんだ。」
春菜の突然の告白に僕は弾かれたような顔をあげた。
「…気付いてなかったんだ。鈍感。」
そんな僕にくすりと春菜は笑った。
「…だからずっとたくみを見ていて…気付いたんだ。時々見せる寂しそうな顔とか…きっと何かあったんだろうな、誰にも言えない事を抱えているんだなって…」
『…』
僕は、僕の心にかかっているベールをゆっくりはがされついくような感覚がした。
それは初めての感覚で心地よく、それでいて少し恐かった。
『…よく、わかったな…』
掠れた声が出た。
「…だって…」
春菜はそこでビールを一口飲むと自嘲したように笑って言った。
「…あたしも同じようなもんだから…」
『え?』
春菜は言葉を選ぶように唇を舐めた。それは春菜が今から言う事の重大さを表しているようでもあった。
「もう…5年前になるかな…あたしがまだ16歳だった頃…―」

…―5年前
真剣に付き合っている彼氏がいた。二つ上。名前は淳。
真剣なんて馬鹿にされるかもしれないけど…高校生なりに純粋に真剣に彼の事を愛していた。
彼も真剣に愛してくれていた。14の頃に知り合って2年間…淳はあたしの全てだった。
…けれど

突然、淳は何も言わず逝ってしまった。
…バイク事故だった。
カーブを曲がりきれず電柱に激突したそうだ。
突然の連絡にあたしは驚いて、すぐに病院にかけつけた。
信じられなかった。
淳がいなくなった事に。
あまりに突然過ぎて泣く事もできなかった。
でも…冷たくなった傷だらけの淳を見て、現実なんだと思い知った。


ここまで一気に話すと春菜はゴクリと音を立ててビールを飲んだ。
いつも笑っている春菜の顔からは表情が消え去っていた。
全くの無表情。
僕は春菜のその表情に自分を重ねた。
僕も郁美を失った後…こんな顔をしていた。
「あたしは悲しみに泣きくれた。淳、淳って。」
…でも淳の死から思わぬ事実が発覚した。
淳が死んだその日、彼のバイクの後ろには彼女が乗っていた、と聞かされたのだ。
耳を疑った。
彼女?
何を言ってるの?
彼女はあたし…―


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