彼女の失恋-1
キィ、キィ……。
めっきり涼しくなってきた9月の夕暮れ、私は公園のブランコに座り、爪先を地面につけながら小さく前後にこいでいた。
そんな単調な動きを繰り返しながら私は今、口に出すべき言葉をいろいろ思い浮かべては声に出そうとしたけれど、どれも気の利いた言葉じゃないような気がして、そのたびに言葉を飲み込んでいた。
静まり返った小さな公園には、元気に遊ぶ子供達の姿はもう無く、カラスの鳴き声と、時折公園の前の道路を通る車のエンジン音と、
―――隣のブランコに座っている友達の、静かに鼻をすすっている音だけが聞こえていた。
「ねぇ、なんであたしじゃダメだったんだろ?」
5分以上も続いていた沈黙を破ったのは、私ではなく、郁美だった。
郁美は、その丸く大きな瞳をゆっくり私に向け、泣くのを我慢しているような震えた声で話し始めた。
「電話もメールも毎日してたし、できるだけ一緒にいたし、喧嘩なんてほとんどしなかったのに……。ねぇ桃子、なんでだと思う?」
郁美のすがるような眼差しは、なぜか私を責め立てているような気がして、思わず下を向いた。
私が小さく、
「さあ……」
と呟くと、郁美は堰を切ったように泣き出し、別れた不満や未練の気持ちを吐き出した。
これで何人目だろう。
郁美は昔から彼氏が途切れるということがほとんどなかった。
そんな私の友達、内藤郁美。
綺麗に染められた栗色の髪は、柔らかくサラサラなストレートで、風が吹けばそのセミロングの髪から、シャンプーのいい匂いがふわりと広がる。
そしてその美しい髪の毛は、彼女の白く陶器のように滑らかな肌を一層映えさせた。
身長は155センチと小柄で華奢で、女の私でもお姫様抱っこができそうなくらいだ。
そして顔。
小さな顔には、黒目がちな大きな瞳、小ぶりな形のよい鼻、薄くていつもツヤツヤな唇がバランスよく配置されている。
彼女は女の子が憧れる全ての要素を兼ね備えているほど、可愛く、美しい子だった。