雪の贈り物-1
西の大陸の北側にある魔法大国ゼビアの冬は厳しい。
特に今年は11月から雪が降り初め、12月の今では一面の銀世界だ。
冬が厳しいと人々の生活も苦しくなってくる。
魔法が日常的に使われるゼビアでもそれは例外では無かった。
冬は魔法学校の生徒も自宅に帰ったりするし、必然的に授業数が減る。
しかし、講師である魔法士達を養わなければならないので、冬の間、魔法学校では暖房効果のある魔具造りが盛んに行われるのだ。
「ああ〜…ダメ……魔力切れ……」
学長であるリン=サクライは長い蜂蜜色の髪を結んでいたリボンをほどいて頭をぐしゃぐしゃにする。
「学長ぉ〜ノルマまで後10個、頑張って下さいよ〜」
一緒に作業していた18歳ぐらいの下級魔法士が、魔力回復に効果のある薬湯を飲みながら文句を言った。
「しょうがないじゃない〜魔力切れたらどうしようも無いわよ」
リンは魔具になる水晶玉を指で転がしてブツブツ言い返す。
これに火系の魔力を込めて暖炉に入れておくと、薪の消費が少なく熱量もアップするのだ。
魔力を使い切った水晶玉はリサイクルされる。
寒さが厳しい時期の必需品。
「んもぅ〜グロウはどうしたのよ、グロウは〜?お腹空いた〜…」
リンは大量の水晶玉が転がる机に突っ伏して悶える。
下級魔法士はふっと顔を上げて時計を確認した。
「……そう言えば遅いですね」
軽食を作ってくる、と言ってグロウが出ていってから、1時間以上たっている。
そんなに手の込んだ軽食なのだろうか?と、下級魔法士が首を傾げていたら俄に外が騒がしくなった。
『リン!』
「遅ぉい……ってか、寒っ?!」
ドアを蹴破る勢いでグロウが何かを抱えて入ってきた瞬間、部屋の温度が一気に5度くらい下がり、リンと下級魔法士はブルッと体を震わせる。
「ちょ……何事ですか?!」
『水晶玉よこせ』
下級魔法士を無視したグロウは水晶玉を一個奪って暖炉に放り投げた。
ブワッと火の勢いが増し、部屋の温度が少しだけ上がる。
その間、グロウは腕に抱えている何かを擦り続けていた。
「?何か特別な食べ物なの?」
『違ぇよ』
グロウは抱えていた物が見えるように体を動かす。
それは布にくるまれた……。
「あら、赤ちゃん?」
『何か声がしたから外出てみたら門の前に居た』
でも、今は泣いておらず顔色も悪い。
「大変っ!トビィ、お湯沸かして!グロウ、猫になって猫にっ」
赤子の額に手を置いたリンは、その冷たさに慌て下級魔法士のトビィとグロウに指示を出した。