是奈でゲンキ！Ⅱ 『是奈、エースを狙え！？』-1
「なあ是奈ぁ！ お前、運動神経良いくせに、何で部活とかやらないんだぁ」
クラスメイトの『中村 彩霞（なかむら あやか）』にそんな事を言われたのは、先週の水曜日だっただろうか。
「そうだよぉ！ 是奈ちゃんもテニス部に入りなよ」
彩霞の親友、『佐藤 都子（さとう みやこ）』も、満面の笑顔で口添(くちぞ）えをしてくる。
是奈は考えていた。
（そうは言われても、２年の途中から部活動に参加するのも、なんだか気が引けるしぃ…… 第一、佐藤さんが笑顔で何か
言って来る時って、いっつも後で酷い目に合うから……何か嫌（や）だなぁ）
そんな事を思って、返答を鈍らせていた。
本当のところを言ってしまうと、是奈は部活なんかして遅くまで学校に居るより、早い常家に帰って、夕刻からやってい
るテレビアニメが見たくて仕方がなかったらしい。しかれど。
『高校生にもなって、あんたまだそんなの観てんのぉ！』なんて、友達には言われたくなかった様でもある。それだけは悟
られまいと、適当な言い訳をして、ずっと部活動の勧誘を断って居たのだった。
「テニス部に入るか、どうするかは別として、来週の土曜日『条東学園』のテニス部と練習試合が有るんだけど、よかった
ら朝霞さんも観にきませんかぁ」
可愛らしい縁無しの眼鏡（メガネ）を ”チョコンッ”と手で押さえながら、テニス部仲良し三人組の一人、一番利発そ
うな『藤平 真由美（ふじひら まゆみ）』がそう言うと。
「そうだよっ！ この前、Ｄ組の『田原』と上手くいくようにって、応援してやったんだ、たまには俺たちの奮闘を応援に
来ても、罰は当たらないぞっ！」
と、彩霞も自分本位２００％な意見でもって、強引に練習試合の応援を是奈に約束させようとする。
それを聞いてか是奈は、やっぱりこの前、田原くんに変な写真送りつけたのは中村さんだったのね！ と、少し脹れた顔
で、怒ったりもする。なにやら相当恨（うら）んでいる様子でも有った。
実際あれ依頼、是奈の片思いの彼氏『田原 嘉幸（たはら よしゆき）』の、ここの所の是奈に対する態度が、何だか素
っ気無いような気もして、是奈も嘉幸に『あんなお転婆な女子なんか、俺の好みじゃないぜぇ！』とか思われ、嫌われたの
ではないかと、気に病んでも居るらしい。最近彼女は、嘉幸の話が出ると、なんだか暗くなってしまっている。
「よ～しそうと決まれば是奈ぁ！ 応援よろしく頼むぜっ！ 集合は朝の７時だっ！！」
と彩霞は、最早是奈の練習試合見学＆友情応援は決定事項とばかりに、是奈の肩をポンポン叩いて、はしゃいで居た。
「やっ！ あっ……ちょっと待ってよ、中村さん！！」
是奈は一人焦って、そんなこと勝手に決めないでよっ！ と、彩霞に文句を言おうと、彼女の制服の裾を引っ張って居た
が。
当の彩霞は、都子に話掛けられて、
「ね～ね～『条東学園』って格好良い男子って、いっぱい居るよね！」
「そーそー！ 特にサッカー部の連中が堪らないぜぇ！！」
そんな話に夢中だった。
「あたしわね～ぇ、相撲部のキャプテンさん！ あのでっぷりとした所が可愛いかも！」
「都子ォ～…… 相変わらずお前の趣味って、変っ！」
「なによー！ 彩霞だってマッチョばっかのくせにぃ！！」
「あの～……わたしは剣道部の人が良いかもぉ……」
三者三様、好き勝手な事をほざいて、話は既にあっちの方へ。誰も是奈の声など、聞いちゃぁ居ないようだ。
そんなこんなで、次の週の土曜日。
「真由美ちゃーん！ がんばってぇー！！」
「いっけーぇ真由美ぃーーっ！ 遣っちまえぇーー！！」
と、都子と彩霞に混ざって、是奈もベンチの端っこに座り込んで、テニス部の人達といっしょに、
「藤平さーん！ がんばれー！！」
とばかりに、朝早くから黄色い声を張り上げて居たのだった。
”１５－４０ マッチポイント！ 藤平！”
そんな声が審判から上がると、彩霞たちテニス部員の歓声も一層、増している様であった。
サーブは相手『条東学園』の女子選手。細い腕を天高く突き上げて、持っていたボールを放すと、空かさず
”パシーーンッ”とラケットで弾き出す。
真由美は、ライン限々（ぎりぎり）に飛んで来たボールに飛び付いてレシーブをする。と、その時である。
「きゃっ！」
真由美は急ブレーキを掛けた右足の足首をクルンと捻って、バランスを崩し、転がってしまった。
”ピーッ！ ３０－４０！ ”
審判のコールが終っても、真由美はしばらく動けないで居た。どうやら打ち所が悪かったのか、右の足首を押さえて、
蹲ったままで居る。