是奈でゲンキ!U 『是奈、エースを狙え!?』-4
”バシーーンッ”と玲子が打ち出した強烈なサーブを ”パコーーンッ”と彩霞が打ち返す。
それを今度は玲子が打ち返し、はたまた、負け時と彩霞も打ち返す。
”0(ラブ)−15(フィフティーン)”
”バシーーンッ”と玲子が打ち出した、第2発目の強烈なサーブを ”パコーーンッ”と彩霞がさっそく打ち返す。
それをやっぱり玲子が打ち返し、はたまた、負け時と彩霞も打ち返す。
”0(ラブ)−30(サーティーン)”
”バシーーンッ”と玲子は3発目。”パコーーンッ”と彩霞もお手の物。
待ってましたと玲子が ”スコーーンッ” そうはさせじと彩霞が ”シュパァーーンッ”。
是奈は思った。
(もしかして、これって中村さんと、あの緑山さんて言う人との、シングルスの試合みたいに見えるんだけど……)
是奈はコートの端っこに佇(たたず)んで、彩霞の邪魔にならぬ様にと、身を潜めた。
そして良く見れば、玲子のパートナーであるはずの和美という子もまた、コートの右端のライン際まで下がって、恨めし
そうに玲子のプレイを、ただただ眺めているだけである。
(ひょっとして、フォーメーション ”J”の ”J”って『JYAMASHINAIDEYO(じゃましないでよ)』の
”J”って事っ)
そんな事を考えながら、薄ら笑いを浮かべている是奈に気が付いたのか、和美も両腕を軽く開いて(駄目だこりゃ〜)
ってなゼスチャーをして見せたりする。
是奈は苦笑いしながら、どうなってるのこの試合? とでも言いた気に、応援してくれている味方ベンチに視線を送る。
すると、どうやらベンチで是奈達の試合を見ていた1年生の女の子達も、和美と同じ様に『駄目だこりゃ〜』を一斉に出
すではないか。
なるほど、1年生達、中村さんとペアを組みたがらないはずだ。と、是奈も納得したようである。
どうやらこうなると、素人同然の、是奈の出番は無さそうである。
(な〜んだ、ダブルスだからプレイーヤーが二人づつ要るだけだったんだっ)と、ヘラヘラと薄ら笑いを浮かべて、やれや
れと言ったところであった。
すると。
「是奈ぁ! 行ったぞっ!!」
と、突然の彩霞の声に、是奈は一瞬、身を縮めて堅くなった。
空かさず ”パコーーンッ”と是奈の足元を翳(かす)めて、黄色いテニスボールが通り過ぎると、是奈も思わず
「きゃっ!」っと、声を上げていた。
”15(フィフティーン)−40(フォーティーン)”
「オーーホッホッホッホッ! な〜にが秘密兵器なもんですかっ! ただのお飾りじゃありませんこと」
是奈の様を見て、空かさず玲子が冷やかしを入れる。
是奈は、すまなそうな顔で彩霞の顔色を伺った。
「ドンマイッ! ドンマイッ! 焦らなくいていいよぉ是奈ぁ! あと一つ叩き込めばこっちの勝ちだ、気楽に行こう!!」
どうやら彩霞、是奈のエラーなど、まったく気にしていない様子である。
それを見て是奈も、気を取り直すと、軽く手を上げて「ファイトぉ!」なんて、自分に気合を入れたりする。
ベンチで見ている1年生達も『朝霞センパーイッ! がんばってー!!』と、応援してくれている。
是奈は心底、励まされる思いだった。
”30(サーティーン)−40(フォーティーン)”
是奈はボールを見送りながら、持っていたラケットをコートに落とすと。
「ごめん中村さん…… あたしやっぱり、あんな凄い球拾えないよぉ」
立て続けにエラーをして、弱音を吐いたりもする。
それを見てやはり玲子が「オーーホッホッホッホォ!」と高笑いするや。是奈も、
「どうしよう…… あたしってば足手纏い(あしでまとい)になってるぅ。 中村さんきっと怒ってるぅ」
と、泣きそうな顔になる。
そんな是奈を見るや否や、彩霞は是奈に駈けより、優しく肩を叩きながら言った。
「気にするな是奈っ。まだまだこれからだぜっ! お前の運動神経が良い事は、俺もよ〜く知ってるんだ。自信持てよっ」
そう言って、ウインクまでして見せる彩霞だった。
「中村さん……」
是奈、何だか胸の内が熱くなる思いがした。
「それによっ、お前の活躍を期待しているのは、テニス部の連中だけじゃぁ無いんだぜっ!」
彩霞はそう言うと、今度はテニスコート裏の広場を指差して見せた。
是奈は、突き出した彩霞の腕の先を追うようにして、彼女が指し示す方向へと目を向ける。すると。
「えっ! 嘘っ! なんでぇ、どうしてぇ! 本気ぃ(マジぃ)!」
なにやらその視線の先に居た人物に目を奪われ、驚き、唖然として、目を丸くさせるのであった。