是奈でゲンキ!U 『是奈、エースを狙え!?』-3
美香は早速その事を審判に告げた。
報告を受けた審判は、相手チームのベンチに向かい、『藤見晴高テニス部』の出場選手に交代が有った事を、相手チーム
に報告する。すると『条東学園テニス部』側から、真由美の健闘を称えた物なのか、あるいわ、素人である是奈を馬鹿にし
た物だったのだろうか、大きな拍手が湧き起こったりしていた。
是奈と彩霞、二人のぶっつけ本番ダブルスの試合が、いよいよ始まる様である。
是奈は着てきた体育用のジャージを脱ぎ、上半身Tシャツ姿に成ると、真由美にスコートとシューズの予備を借り、ラケ
ットは部長である美香の物を借りての登場のようである。
端から見れば、ド素人丸出しな格好をして、それでも以前体育の時間にやったテニスを思い出しながら、彩霞に連れ添っ
て、是奈もセンターコートへと足を踏み入れたのだった。
「オーーホッホッホッホッホォっ! 久しぶりに我が好敵手『中村さん』との対決だと思いきや、張り切っておりましたの
にっ。いったい何ですの、その取って付け合せたようなお粗末なパートナーの方はぁ」
突然、ヒヨドリが囀(さえず)るかの如く、甲高い大声で、高飛車な事を言い掛かりながら『条東学園女子テニス部』の
エース『緑山 玲子(みどりやま れいこ)』が、そんな事を言って彩霞を権勢すると。
「うっせーなこいつぅ! よーく憶えておけよ、玲子っ! こう見えてもこいつはなぁ、我が『藤見晴高女子テニス部』の
シークレットウエポンなんだっ! 舐めて掛かると痛い目みるぜっ!!」
などと、彩霞も根も葉もない事を言って、見得を切ったりする。
是奈は、そんな彩霞の背中に隠れるようにして(中村さん、いい加減な事を言って、余り相手を刺激しない方がいいので
はぁ……)と、おろおろするばかりである。
ところでこの『緑山 玲子』と言う人、父親が大きな会社を経営していると言う、所謂社長令嬢であり、その為か、人一
倍負けん気の強いお嬢さんのようでもある。そして、中学時代には彩霞と同じ中学校に通い、良き友としてテニス部のレギ
ラーメンバーの座を争っていた仲だったりもしたが。進学した高校が違って、今と成っては、こうして大会や練習試合の度
に、お互い闘志を向け合っていた様子である。勝ったり負けたり、なんとも腐れ縁のライバル同士と言えよう。
「シークレットウエポン、秘密兵器ですって! オーッホッホッホッホッホッ! お笑わせに成りますこと。藤平さんが
パートナーならいざ知らず、そんなド素人の子とペアを組むなんて、中村さん! 最早、貴方に勝機は無くってよっ!!」
「えーい五月蝿(うるさ)い、五月蝿い! お前こそ笑っていられるのも今の内だっ! 直ぐに吠え面か貸せてやるっ!!」
「それほどまでにおっしゃると言うのであれば、その秘密兵器とやらの実力、徳と拝見させて頂きますわっ!」
「おおっ! やってやるぜっ!! いいか目ん球ひん剥いて、よーーく見ておけっ!」
「っんま! そう言う事でしたらこちらも手加減無し、全力を持って、お相手して差し上げますわっ」
とまあぁ、会う度、こんな調子であった。
お互いコートの真中で握手もままならず、見詰め合った瞳の先で火花を散らすと。
それでも配置に着いて、準備もよろしく、『緑山 玲子』サービスによる第一セットの開始である。
「そう言う訳ですから和美さん、この勝負、負けられません事よっ!」
玲子はそう言って、釣り上げた眉毛をピク付かせながら、ペアを組んでいる女の子を睨みつけると。さらに。
「少々早いですけど和美さん、此処はフォーメーション ”J”で行きますわよ!」
と、自身もサーブを打つベくボールを弾ませながら、そんな指示をだす。
「えぇ〜玲子さぁ〜ん……いきなり ”J”ですかぁ。……ちょっと嫌かもぉ」
「何か言いまして!」
「あ〜……はぃ。……解りました、”J”で良いです……」
「オーーッホッホッホッホッ! よろしい。聞き分けが良くってよ」
何やらおかしな作戦でも企んだのか、パートナーの女の子は出された指示に嫌々の様子である。
”ゲーム! 『緑山、神崎』ペア 対 『中村、朝霞』ペア! 第一ゲーム『緑山』サービス! プレイッ! ”
「いいかぁ是奈ぁ! 俺がオフェンス、お前がディフェンスだぁ」
「要するに、中村さんが打ち漏らした球を、拾えばいいんでしょぉ」
彩霞と是奈、コートへ付いて、いよいよ戦闘開始である。