双子の兄妹-8
「ごちそうさま。ケン兄、ありがとうね」
マユミはすっきりした顔でにっこり笑うと、カップをトレイに戻した。「何だか気が晴れた。こんな話聞いてくれる男子って、考えてみればケン兄しかいないね。ほんとにありがと」
「気にするな」ケンジも少しこわばったような微笑みを返した。
「やっぱりさ、つき合うにしても、まずこうやって直接いっぱい話さなきゃだめだね。メールなんかじゃだめだよ、うん」
マユミは自分を納得させるように言ってトレイに手を掛けた。
「ま、また何かもらったりしたら誘うから」
「嬉しい。期待してる」マユミはウィンクをした。
ケンジはどきりとした。そしてますます目の前の、そのある意味無防備な態度の妹に対する想いの温度が上がっていく感じがした。
「じゃあ片付けるね」
「いや、俺が片付けるよ」
「あたしがやらなきゃ。ごちそうになったんだもの」
「おまえ勉強の途中だろ。俺に任せろ。時々こういう事をしとけば母さんに好印象だろ」
マユミは笑った。「そういう事かー。じゃあ、お願い」
マユミと一緒に立ち上がって、ケンジは彼女を隣の部屋まで送った。マユミの身体からほんのりとバニラの香りがした。そしてほのかな彼女の体温を感じてケンジはまた鼓動を速くした。
「ケン兄が彼氏だったら、素敵だろうな」
マユミは屈託のない笑顔でそう言って部屋の中に消えた。
部屋に戻ったケンジは、マユミが座っていた所に彼女の小さなハンカチが置き忘れてあるのに気づいた。彼はそれを恐る恐る手にとって、自分の鼻に近づけた。やっぱりバニラの香りがした。妹が座っていた場所に同じように座ってみた。彼女の温かさがまだ少し残っていた。そして妹が使ったカップを手に取った。彼女が口をつけたカップの縁にそっと自分の唇を押し当てた。ケンジの鼓動はますます速く、強くなっていった。
その夜、ベッドで寝ていたマユミは、かすかな物音と人の声に気づいて目を開けた。それは隣のケンジの部屋から壁越しに聞こえてくる。「ケン兄、こんな夜中に何してるのかな……」
マユミは耳を澄ました。ベッドが軋む音とケンジの小さな声。小さな声で「マユ」と呟いているようにも聞こえる。
「えっ? あたし?」
マユミそっとベッドから起き上がり、音を立てないようにベランダに出てケンジの部屋の中を窺った。
「なに? ケン兄、具合でも悪いのかな……」
ベッド脇の小さなライトだけが灯っていた。その黄色い光の中でケンジはベッドにうつ伏せになって、両腕できつく抱きしめた枕に鼻と口をこすりつけながら喘いでいる。荒い息で彼は時折、確かに「マユ」と呟いている。目を凝らしてよく見ると、彼が鼻と口をこすりつけているのは、自分がケンジの部屋に置き忘れたらしいハンカチだった。やがて兄の腰が上下に激しく動き始め、掛かっていた薄いタオルケットがベッドから滑り落ちた。彼は黒の下着一枚という姿だった。それを見たマユミは焦ったように部屋に戻った。彼女の胸の鼓動は大きく、速くなっていた。
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