双子の兄妹-4
明くる7月31日。月曜日。
部活の間中、暗い顔をしていたマユミを見かねて、プールから上がったユカリが声を掛けた。
「デートで何かあったんだ、マユミ」
マユミの目に涙が浮かんだ。
「乱暴されたの?」
マユミはコクンと頷いた。
「言ったでしょ、男のコってそんなもんだ、って。で、無理矢理エッチさせられたの?」
マユミは首を横に振った。
「じゃあ、キス?」
またマユミは首を振った。
「何されたのよ」
マユミは小さな声で言った。「抱きつかれて、おっぱい揉まれた……」
「おお、そりゃびっくりしただろうねー」ユカリはマユミの肩に手を置いた。
マユミはようやく目を上げてユカリを見た。
「男の子ってみんなそうなのかな……」
「あの品行方正っぽいアキラ君でさえそうなんだから、まず99パーセント、オトコはそんなもんなんだろうね」
「ひどい……ひどいよ、いきなりあんな事」
「でも、言われてみればアキラ君、目つきは鋭いね、確かに。あれはオスの目だ」
「そう……思う?」
「表情は優しいけど、ぎらぎらしてない? ま、サッカー部のレギュラーだから無理もないか」
マユミの目から涙がぽろりとこぼれた。
「ところであんた、どんな格好でデートしたの?」
「……Tシャツにキュロットだよ」
「何それ。もっとお洒落するでしょ。普通、デートなんだから」
「だって、何着ていけばいいのか、わかんなかったんだもん……」
「あんたの普段着じゃん、それ。思いっきり」
「そんな事言ったって……」
「で、どこで襲われたの? 彼の家?」
マユミはコクンと頷いた。
「でも、わかるな」
「何が?」
「上はTシャツ一枚だったんでしょ?」
「そうだけど……」
「あんたのその巨乳見たら、オトコなら誰でも触りたくなるよ」
「やめてよ、巨乳なんて……」マユミは顔を赤くして、抗議するようにユカリを睨んだ。
「しかもそれでのこのこ彼の部屋まで行ったわけでしょ? あんたには悪いけど、ある意味、自然な行動だね、アキラ君」
ユカリはプールサイドのベンチにマユミを座らせて、静かに語り始めた。
「思春期の男ってそんなもんだって。高校生ぐらいの男子は、エッチな本とかサイトとか、女の子の下着とかに異常に興味を示すものだし。実際女のコが目の前にいて、もしかしたら脈有りか、って思っちゃったら我慢できなくなるんだって。あんただってそれくらい知ってたでしょ?」
「でも、初めてのデートだよ?」
「そんな事欲情したオトコには関係ないよ。でも、いきなり抱きついたりするのは行き過ぎだね。確かに」ユカリは目を閉じてこくこくと頷いた。
マユミはまたうつむいた。「ひどいよ……」
「でも、一人で男の子の部屋に行くって事は、あっちもそんな行為をOKした、って思うんじゃない? あんたも警戒心なさ過ぎだよ」
「……もう、懲りた」マユミは大きくため息をついた。
「でも、良かったじゃん。唇もカラダも奪われなくてさ。一応貞操は守れたわけだし」
その中学来の友人は優しく微笑みながらマユミの肩をぽんぽんと叩いた。
「ごめんね、ユカリ。慰めてくれてありがとう」
「気にしないで。マユミこそ、今度はちゃんとあんたに優しくしてくれる人とつき合いなよ」
「……もう、無理かも」
ユカリは不意に思い立ったように言った。「いる、いるね、あんたにぴったりな男子」
「えっ?」
ユカリはにやにやしながら続けた。「優しくて、あんたを大切にしてくれそうな人。そうそう、この人ならいざそういう事になっても野獣にならない気がする。オトコの残り1パーセント」
「だ、誰よ、それ」
ユカリは人差し指を立てた。「ケンジ君」
「ええっ?! ケン兄?」マユミは驚いて思わず大声を上げた。
「態度も、顔つきも、それに目つきもめちゃめちゃ優しそうじゃん。あんた一緒に住んでるからわかるんじゃない?」
「た、確かにケン兄は優しいけど、つ、つきあえないでしょ、あたしたち兄妹なんだから」
ユカリは楽しそうに言った。「わかってるって。残念だったね。マユミの彼としてぴったりなのに。あたしだって今の彼とつきあってなければケンジ君に抱かれたいって思うな」
「だ、抱かれたい?」
「あの逞しい身体、優しい目、シャイな仕草、もう理想じゃない? ある意味高校生離れしてる感じ」
「まじめにやって、ユカリ」マユミは赤面したままベンチを立った。