双子の兄妹-11
ケンジは大会が行われた会場への道を自転車で辿った。顔が火照り、鼓動が少し速くなっていた。
二つ目の交差点を過ぎた頃、不安げな表情で自転車を押していたマユミを見つけて、ペダルを漕ぐ足に力を込めた。
「マユ!」
「あ、ケン兄」
マユミはひどく嬉しそうな顔をケンジに向けた。
彼女の背後の白い光を投げかけている街灯の下に蚊柱が立っていた。
「どうしたんだ?」
ケンジはマユミのそばで自転車を降りた。
「パンクしちゃったんだ……」
「パンク?」
「うん」
確かにマユミが押す自転車の前輪のタイヤは無残につぶれている。
「母さん、心配してたぞ」
「そう」
マユミは申し訳なさそうな顔をした。
「俺も……」ケンジは少し照れたようにそう言いかけ、続く言葉を呑み込んだ。
「え?」
「い、いや。何でもない」
ケンジはケータイを取り出し、素早くボタンを押した。
「母さんにメールした。帰ろうか、マユ」
「うん」
ケンジはマユミと自転車を交換し、それを押しながら横に並んで妹の足取りに合わせてゆっくりと歩いた。
「良かった、ケン兄、ありがとう。迎えに来てくれて」
「気にするな」
マユミは不安そうな顔をケンジに向けた。「夜は一人だと怖い」
ケンジは足を止めた。
「何かあったのか?」
マユミも立ち止まった。「変なヤンキーに声かけられた」
「ほんとか?」
「うん。コンビニの前で。でも無視して走って逃げた」
「そうか。今度から電話しろよ。いつでも迎えにきてやるから」
「ほんとに? 嬉しい、ケン兄」
マユミは本当に嬉しそうな顔をした。
「って言うか、今度はちゃんと忘れずにケータイ持って出かけるんだぞ」
「うん……」マユミは頭を掻いた。
二人は再び並んで歩き始めた。
「もう、やんなっちゃう。明日、朝早いのに……」
「自転車屋、もう開いてないな、この時間」
「ついてない……」
うつむくマユミに、ケンジは努めて明るい声で言った。
「俺のその自転車使えよ」
「え?」
「帰ったら、サドル、おまえに合わせて低くしといてやるから、それで明日部活に行けばいい」
「ケン兄は?」
「俺は走って行く。自主トレにもなるし」
「いいの? ケン兄」
「気にするなって」ケンジはマユミに顔を向けて笑った。
マユミは立ち止まり、ケンジの笑顔を見つめた。「ご、ごめんね、ケン兄」
そう呟きながらマユミは自分の胸が少しずつ熱くなっていくのを感じていた。
その夜、マユミはベッドの端に腰を下ろし、美穂が貸してくれた本をバッグから取り出した。
その表紙には、頬を寄せ合い、幸せそうに微笑む兄妹らしい男女のイラストが描かれていた。
マユミはそっとそのページをめくった。
本の真ん中辺りに、一ページ全部を使って描かれた挿絵があった。それは主人公の兄妹が、一糸纏わぬ姿で身体を重ね合って貪るようにキスをしているイラストだった。
マユミの顔がかっと熱を帯びた。
彼女は見開きのもう一方のページに書かれている文章を目で追った。
『昌広は、全身に汗を光らせ、激しく身体を揺さぶっていた。妹の恭子は、兄の背にきつく腕を巻きつけたままで、同じように身体を揺すり、甘い喘ぎ声を上げた。』
ごくり、とマユミは唾を飲み込んだ。
『出る、出る、イくっ、恭子っ! 兄の昌広が叫び、身体を硬直させた。 どくんどくん…… 彼の身体から白く熱い想いが妹の中に注がれた。 マサ兄ーっ 恭子も叫び、愛しい兄の身体をさらに強く抱きしめた』
マユミの鼓動は最高に速く、大きくなっていた。
「(『白く熱い想い』って、精液の事……だよね)」
マユミは、本を閉じ、ベッドの枕元に置いて、ごろんと横になり、焦ったように灯りを消して、ケットを頭からかぶってしまった。
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