誠実な男?-3
それから二人を包む、奇妙な沈黙。
やり場のない視線はベンチで組まれた彼の長い脚に落ち着いた。
細身の、膝の擦りきれたジーンズ。少しゴツめの履き慣らした赤と黒の二色使いのスニーカー。
これまた使い込まれたシングルのライダースジャケットからニョキッと出た細くも綺麗な手。
時折ベンチ横にある灰皿にポンと灰を落とす姿に、悔しくも見とれてしまった。
こりゃ、女がほっとかないはずだわ……。
きっと女なんて自分から口説かなくても、向こうからいくらでも言い寄ってくるに違いない。
こういう男が心底惚れる女の子って一体どんなタイプなんだろう、そうぼんやり考えながら、あたしは口を開いた。
「あ、あのさ、臼井くん」
初めて呼ぶ名前にドギマギしてると、彼はゆっくりこちらを見る。
「あ、のね……。いきなりだけど、彼女っているの?」
「何だ、いきなり」
あたしの質問に、なぜか噴き出した彼は、笑いながらそう言うと、煙草を灰皿にポイと捨てた。
ジュッと、溜まっていた水にそれが落ちると、細い煙が立ち上る。
「いいから答えて」
「そういやしばらくいねえなあ。何、彼女になってくれんの?」
ニヤニヤ笑う顔に、真っ赤になって焦り始める。
「違うわよ! 誰があんたみたいな男……」
……っと、これじゃまたいつものパターンだ。
危うくコイツのペースに乗せられそうになったあたしは、ゴホンと咳払いをしてから居住まいを正した。
「しばらくいないってことは、女の子とは真面目に付き合ったことがあるのね?」
「ええ、俺はいつでも恋愛に対しては真剣ですから」
ケッ、どうだか。
そう言ってやりたくて、喉まで出掛かった言葉をなんとか飲み込む。
本題に入る前に、コイツを怒らせでもしてしまったら元も子もない。
なるべく平静を装って、あたしは深呼吸を一つしてから、いよいよ核心に迫った。
「じゃあ、今臼井くんに彼女がいると仮定します。彼女とは付き合って3ヶ月になるところです。でも、身体の関係はまだありません。彼女はそういう経験がなくて、怖がっているからです。
臼井くんならこのまま我慢して、付き合っていきますか?」