痛み-3
「別れろよ。」
早坂さんは、私が話しを終えるなりそう言った。
「…」
「別れろって言ってもらいたいから、俺に電話したんだろ?
背中押されないと踏ん切りつかないんだろ?」
図星だった。
早坂さんだったら、別れろと言ってくれると分かっていた。
私は、結局、一人では何も決められないんだな、とぼんやり考えた。
「で、別れるの?」
早坂さんは答えを急かす。
「…確かに、別れろって言ってくれると思って早坂さんに言ったんだけど…」
「だけど?」
「私たち、5年も付き合ったんだよ。
18歳からの5年間て、かなり濃いと思うんだよね。大人になる移行期間ていうか…」
「で?」
「端的に云うと、思い出が多すぎるんだよね…
楽しかった事とか、嬉しかった事とか、色々思い出しちゃって…」
早坂さんは、深くため息をついた後、
「思い出があるからって何なの?
思い出は、繰り返せないんだよ。」
と、言い切った。
しばらくして、電話を切った。
思い出は、繰り返せないのか。
私はぼんやり外を見た。日が少し短くなったな、と思った。