第二章 媚薬地獄-1
美優は、帰宅するとすぐにバスルームへと飛び込んだ。
「どうして……どうしてこんなことに……」
急いで服を脱ごうとするが、手が震えて上手くいかない。
脚もガクガクと震えている。
大村から離れて一人になると、恐怖やら不安が猛烈に沸き上がってきた。
「私……私……なんて事を……」
潤みきった瞳からはボロボロと涙が溢れ、今頃になって歯痒いばかりの後悔に駆られた。
どんなに悔やんでみても、美優には泣くことしか出来なかった。
シャワーのコックを捻り、裸身の隅々へ湯をじっくりとあてていく。
手にしたタオルには、普段の倍の量のボディソープを落とした。
タオルを身体にあて、まるで韓国マッサージにある『垢すり』でも行うかのように、ゴシゴシと強く裸身を擦り上げる。
身体に付着した大村の粘液や匂い……それら全てを一刻も早く消し去りたかった。
大村が執拗に舌を這わせてきたバストや腋の下、お尻、それに秘部は、特に念入りにタオルを押し付けて洗った。
しかし、それらを強く擦れば擦るほど、つい今しがたの悪夢が沸々と脳裏に浮かび上がった。
そこには憎悪と嫌悪しかないはずなのに、ひどく乱れてしまった肉体の性感が、情けなくもまだ余韻を残しているかのようにズキンと微弱な電流を走らせてくる。
「私……一体どうしたらいいの……」
生まれてはじめて味わう絶望的な感覚。
不条理な取引だったとは言え、美優自身が選択した行為はもう取り返しがつかない。
そう思うと目の前が真っ暗になった。
美優は、その場にストンと腰を落とした。
暫く呆然とした後、シャワーの湯を頭から浴びながら総身を震わせて嗚咽しつづけた。