第二章 媚薬地獄-3
「あっ……」
美優の胸中は複雑だった。
こんなにも優しい夫を裏切ってしまった事と、まだその裏切り行為が残されている事を思うと、とてもじゃないがこの場に居た堪れない気持ちでいっぱいだった。
「立ったまま後ろから入れるなんて、初めてだな」
夫の言葉にフッと我に返り、気付くと固いものがお尻に押し付けられている。
いつしかパンティは膝上までズラされ、夫の手がお尻の肉を左右に開きながら勃起したペニスを中心部分にあてがってきていた。
「うんっ……」
美優の口が小さく啼いた。
スカートの裾をめいっぱい押し上げ、剥き出しにされたヒップにググッと腰を密着させてくる夫。
「あっ……ああっ……」
ゆっくりと押し入ってくる牡肉の感触に、嫌な思いがメラメラと胸を灼いた。
「ううん、相変わらず気持ち良い締め付けだ……にしても、やけに濡れ具合が凄いな。君も興奮してるのかい?」
ペニスの幹をすべて尻の狭間に埋め込み、夫の貴明が興味深そうに聞いてくる。
「そ、そんなことはありません」
普段とは違う夫の卑猥な口調に、美優は慌てたように首を横に振った。
「あっ―――」
深々と差し込んだペニスをゆっくりと引き、そして再びズンッと突き入れる。
妻の唇から溢れてくる悩ましい声を聞きながら、貴明は徐々に腰の動きを早めていった。
ヌチャ、クチャ、ヌリュ、ヌチャ―――
突き入れやすいように妻の腰を手前へ引き、時折くぐもった声を漏らしながら貴明がせっせと腰を振り立てる。
キッチン内に淫靡な音が響き、尻の狭間で抜き差しされているペニスは妻の愛液でヌラヌラだ。
美優は、鈍速な愉悦に甘い吐息を漏らした。
夫の行為をよそに、意識はまったく別のところにあった。
背後から夫に抱かれながら、困惑する美優の脳裏には憎い大村の顔が浮かんでいたのだった。
非日常的な朝の情事を終え、満足げに出て行く貴明。
そんな夫を見送ってから、美優は何度もかぶりを振りながら掃除を始めた。
一心不乱に部屋の掃除をし、洗濯をし、一通り家事を終えた頃にはうっすらと汗をかいているほどだった。
軽くシャワーを浴び、クーラーの利いた室内で体温を冷しながらアイスティーで身体の中を潤す。
美優は、壁に掛けられている時計をさり気なく見た。
「はあ……13時か……」
長い睫毛に縁取られた眼が、憂鬱そうに歪む。
頭の中に沸いてくるのは例の写真のことばかり。
写真とネガを取り戻すため、再び夫への裏切り行為を続けるか……もしくは、正直に夫へ事情を話すか―――。
いや、それは出来ない。
すでに大村と寝てしまっているのだ。
写真の真相がどうであれ、大村との事は揺らぎのない事実でしかない。
いくら寛容な夫でも、馬鹿な行動を取ってしまった自分を許すわけがないと思った。