第二章 媚薬地獄-2
翌朝、キッチンで朝食の準備をしている美優に、夫が新聞を開きながら声をかけてきた。
「なあ、昨日さ、あんまり元気がなかったようだけど、どっか具合でも悪いのか?」
「えっ? う、ううん、大丈夫。昨日は、夕方くらいから偏頭痛がしていて……でも、もう大丈夫だから」
「偏頭痛か……病院に行かなくて平気か?」
夫は心配そうに言ってから席を立ち、ゆっくりと愛妻のほうへ歩み寄った。
「あ、あなた……」
背後からエプロン姿の妻を軽く抱きしめる夫。
「今夜も遅くなりそうなんだ。体調が悪いときに、傍にいてやれなくてさ、本当に申し訳ないと思ってる。ごめんな」
「ううん、いいのよ。そんなに大した事じゃないから気にしないで。それより、いま事務所問題とかで大変なんでしょ? あなたのほうこそ大丈夫?」
美優は精一杯の笑顔と平静さを装い、逆に夫のほうを気遣った。
「政治家ってのは、叩けば埃だらけだ。自分は潔白だからと胸を張っていても、つついてくる奴らは身内だろうが何だろうが、どっからでも不正になるネタを仕入れようとしてくるからね」
耳元で囁くように言う夫の言葉に、美優の表情がおもわず強張った。
「でも僕は大丈夫さ。身の回りにも十分注意しているし、どんなにつつかれたって何も出るものはない。ただ、君みたいな美人が妻だって事が知れたら、ひどく羨むものは出てくるかも知れないけどね」
軽く言う夫とは対照的に、美優の胸は凄まじい不安と恐怖で押し潰されそうになった。
「なあ、今朝はわりかし時間があるんだ」
夫が囁きながら、エプロンの横から腕を差し込んでくる。
「あっ、あなた、朝食が冷めちゃうわ」
「君の料理は、冷めたって美味いから平気さ。それより、いま猛烈に君を食べたいんだ。具合悪い時にこんなこと言うのは不謹慎だけど、今朝の君は妙に色っぽい」
性に淡白な夫にしてみれば、朝から求めてくるなど珍しい事だった。
それだけに、美優の不安と緊張は肥大した。
政治家の妻として、軽はずみな行動はしてくれるなよ……そう念を押されているような気がしてならなかった。
「朝っぱらから興奮するなんて、俺もどうかしてるな」
言葉どおり、夫の息遣いがいつもより荒い。
エプロンの中に入り込んでいる夫の手が、ポロシャツの上からギュッ、ギュッ、と胸の膨らみを普段とは違う手つきで揉んでくる。
夫の愛撫には何の工夫もなく、ただ情欲のままに行っているという感じだ。
「美優……君って、ほんとに顔もスタイルも抜群だよなぁ」
愛妻の横顔に頬を寄せながら、夫がしみじみと呟いた。
胸の膨らみにあてがっていた手はいつしかスカートの中へと移動しており、そこでむっちりと張った太ももの付け根をせわしく揉んでいく。