fainal2/2-61
「……本当は、上内学園から誘われたんだ。ピッチャーとして女子野球部に来ないかって」
「上内っていや、全国レベルのチームじゃねえか」
「でも断った。何か違うような気がして」
「そうか……」
──佳代は自ら行動し、すべての選択肢から選んだのだ。
「まあ、光陵なら兄貴や山崎さんがいるから安心だな」
「どういう意味よ!」
「寝坊なんかしてみろ。半端なく怒鳴られるぞ」
「うっ!」
黄昏の校庭に、直也の哄笑が響き渡る。
二人の前に、校門が近づいてきた。
「じゃあ、またな」
「あっ!ちょっと待って」
立ち去ろうとする直也を、佳代は呼び止めた。
「どうした?」
「あのね、ちゃんとお礼言ってなかったから」
「お礼?」
佳代は直也の前で姿勢を正すと、深々と頭を下げた。
「今日まで、わたしと帰ってくれて、ありがとうございました!」
思いもしない出来事は、直也の返事を詰まらせる。
「あ、ああ……」
「それじゃ、また明日!」
「ああ、勉強頑張れよ」
「うん!」
校門からの下り坂の道を、佳代は帰っていく。朱色に染まった風景に遠ざかっていく後ろ姿を見て、直也は思わず呟いた。
「こっちがお礼を言いたいくらいだ……お前と出逢えたからこそ、俺たちは彼処までやれたんだから」
直也は下り坂に背を向けて歩き出した。
「明日から塾かあ。大変だろうなあ」
坂を下った先の横断歩道で、佳代は信号待ちしていた。すでに気持ちは、明日からのことへと傾いている。
「あれ?」
すると、交差する道の向こうから、自転車に乗った小学生くらいの女の子数人が、こっちに向かって来た。
女の子たちは、野球のユニフォーム姿で、頭にヘルメットを被っている。
ほんのちょっと前のことなのに、佳代には懐かしい光景に思えた。
「こんにちは!みんな、何年生?」
思わず声をかけてしまった。
「あの……六年生です」
「じゃあ、来年は中学生だね。野球は続けるの?」
佳代の問いかけに、大半の女の子は「やらない」と答えたのに対し、
「わたし、野球部に入るつもりです!」
たった一人だけ、続けたいと答える女の子があった。
佳代はその子に興味を持った。
「どうしてやりたいの?」
女の子は再び問われたことに戸惑いながらも、自分の想いを佳代に伝えた。