fainal2/2-59
──エピローグ──
九月末日。
「早くしろよ!」
「ちょっと待ってよ!」
練習後のいつもの光景。佳代と直也のいさかいも今日が最後だ。
今日は三年生の引退式。明日からは、ニ年生が主体となる新チームが始動する。
佳代にとって、中学野球が終わりを告げた日だ。
「本当、あんたってせっかちだね!」
「お前がのろまなんだろ!」
「女の子だから色々あるんだよ!」
「何が女の子だ。でっかいナリしやがって」
「あ〜っ!そんなこと言うなら、もう有理ちゃんに伝言してやんないッ」
「あ、いや、悪かった!謝るよ」
「まったく……いい加減、自分でいいなよ」
「そ、それより、秋の大会でニ連覇出来て良かっなあ!」
先週まで行われていた秋季大会で、青葉中は昨年に続いて優勝を勝ち取ることができた。
「そっちは良かったけどね……」
ただ、全国制覇を目標に掲げた夏の大会の方では、残念ながらニ回戦で敗退してしまった。
沖浜中との試合で傷を負った佳代は、幸いにも肩への異常は見られなかった。
彼女はその事について「野球の神様が最後にご褒美くれたんだ!」と、喜び勇んで全国大会へと臨んだ。
決勝戦、キャッチャーとのクロスプレイで膝を負傷した加賀に、強烈なピッチャーライナーが額に直撃した直也も大事に至らず、全国大会にはすっかり快復していた。
そうしてベストメンバーを揃えたはずだったが、全国の壁は彼らの予想より遥かに高かった。
直也や省吾、淳に佳代を持ってしても、後に優勝を飾った沖縄の代表チームと対戦して、見事に打ち込まれてしまったのだ。
「それに、藤野コーチまで辞めちゃうなんて……」
それは、秋季大会後に一哉自身の口から発表された。
「また社会人野球に戻るなんてな。今でも信じられねえよ」
一哉はただ「もう一度、自分の為に野球をやりたくなった」と言って、古巣への復帰を示唆した。
聞かされた部員はもとより、永井も葛城も驚きと共に寂しさを覚えた。
とりわけ、一哉に敬愛以上の感情を抱く佳代に至っては、今でも複雑な感情を抱えている。
「ところで、高校でも野球やるのか?」
突然、直也が話題を変えた。
「なあに、それ?」
佳代は、不意の問いかけを困惑気味に訊き返す。
「今日で野球部も引退したし、先をどうするのかな、と思ってよ」
「なあるほど」
中学と違い、高校の硬式野球部は、女子生徒への門口を実質上閉ざしている。
特に強豪校は男子でもセレクションという、能力によって甲子園を目指す者と、単なる部活をやる者へと“振り分け”がなされる昨今、まして女子部員となれば“規約”が障害となって、部活の練習すらやらせて貰えるかも疑わしい。
直也は、その辺りを踏まえて訊いたのだろう。