fainal2/2-54
「行けえ!走れッ」
打球は遥か後方のフェンスに直接当たった。慌ててバックしたライトは、跳ね返ってきた打球を処理すると、鋭い送球をサード目掛けて投げた。
その間、ニ塁ランナーの乾は同点のホームを踏んだ。
「ストップ!ストップ!」
打った佳代は、ニ塁を大きく走り過ぎたところでストップした。どうやら、跳ね返った打球に勢いがあり過ぎたようだ。
「やった!同点に追いついたッ」
三塁側のベンチもスタンドも、悲鳴にも似た歓声が沸きあがった。序盤の劣勢を土壇場で跳ね返したばかりか、サヨナラのランナーがニ塁にいるのだから。
「タイム!」
ここで、沖浜中が最後のタイムをとった。ピッチャーの周りに内野手と伝令が集まった。
(達也と淳を歩かせて川畑と勝負するか、それとも……)
佳代は、ニ塁々上で敵の円陣を見つめながら、色々と思いを廻らせる。
(ここまで来たら、絶対ホームを踏んで、この試合を決着つけたい!)
円陣が解かれた。内野手が各ポジションに戻っていく。
達也は二度、三度と素振りを行ってから打席に入った。するとキャッチャーは、立ち上がった。
(やっぱり)
本日二度目の敬遠に、スタンドから不満の野次が飛んだ。許された行為とはいえ、“勝てばいい”というやり口が、観客のひんしゅくを買ったのだ。
「ボール!フォア」
達也が歩かされて一死二塁、一塁。キャッチャーは、内野の守備位置を定位置からダブルプレイ体勢へと変更した。
淳とは勝負の腹積もりだ。
「タイム!」
沖浜中の伝令が主審に走り寄った。どうやら、交替を告げているようだ。
「あれ?」
すると、ライトがマウンドに走り寄ってきた。ピッチャーがボールとグラブをライトに手渡した。
「ここに来てピッチャー交替か……」
ネクストから淳は、最後の悪あがきだと思った。が、投球練習での初球を目の当たりにした途端、その考えは消え去った。
凄まじい剛速球が、キャッチャーのミットを高らかに鳴らしたのだ。
途中出場だから、おそらく守備要員なのだろうが、その強肩を守備固めだけに限定するのは勿体ないと、沖浜中の指揮官は考えた。
「こんな奴、データになかったぞ……」
淳は、焦りを抱いたまま打席に立った。
キャッチャーはサインを出さない。ただ、真ん中にミットを構えるだけ。それを見たピッチャーは、ややぎこちない投球動作から初球を投げ込んだ。
ボールは風切り音を纏いつつ真ん中低めからポップして、高らかにミットを鳴らした。
エースピッチャーとのスピード差は歴然で、益々、淳の心を焦らせる。