fainal2/2-49
「しまって行くぞォ!」
すでに達也の出す声も掠れている。九回表、沖浜中の攻撃を迎えた。
直也にとっては、最後のイニング。投球練習を終えて、ホームに背を向けて帽子をとる。
弱気は最大の敵!──
つばの裏に書かれた文字を、直也は祈りでも捧げるように見つめて何やら呟くと、再び帽子を被り直してホーム側を向いた。
「プレイ!」
主審が右手を上げた。九回表が始まった。
打席には沖浜中のピッチャーが、六番バッターとして立った。
(息が上がってるのに、打ち気満々だな)
先頭バッターとしての役割を果たしたい思いを、直也は感じ取る。だからといって、出塁させるわけにはいかない。残りの力をすべて使い果たすつもりで挑んだ。
バッターは喰らいつこうとするが、直也の気概に圧されてしまい三振に終わった。
「ワンアウト!あと二つだぞ」
先ずは先頭を斬った。打順は下位。だからといって油断は出来ない。
「タイム!」
ここで沖浜中は動いた。七番バッターに代打を送ってきたのだ。
達也は、それを見て渋い顔になった。データのないバッターだからだ。
(とりあえず、外角低めで反応を見るか)
サインに頷いた直也は、ワインドアップに構える。
左足を跳ね上げて上体を大きく捻る独特のフォーム。
左足が窪みを踏みしめ、今まさに右腕を振りだそうとしたその瞬間、直也の視界に、また暗幕が下りた。
「ぐっ!」
惰性から投じられたのは、力のないボールだった。
──キンッ!
思い切り叩いた鋭い打球が、真っ直ぐピッチャーを襲い掛かかってきた。当然、直也に避けることは出来なかった。
「直也ッ!」
打球は直也の額を直撃し、サード側へと転がった。
跪き、うつ伏せに崩れ落ちた直也。乾が必死に打球をフォローするが、バッターの出塁を許してしまった。
再び救護班がマウンドに駆け寄った。すぐに和田と中里もベンチを飛び出した。内野手全員が、倒れた仲間の周りに集まった。
「直也……」
佳代はブルペンから一部始終を目撃した。まるでスローモーションのようにぐずおれた様相は、彼女に恐怖感すら抱かせた。
「澤田さん、急ぎましょう」
キャッチャー役の下加茂が言った。
「急ぐって?」
「川口さんは、もう無理です。だから、プレイの止まっている今のうちに、交代の準備をするんです」
佳代は一瞬、強い憤りを感じたが、確かに下加茂の言うのは正論だ。