fainal2/2-47
「森尾に繋げよ!」
病院での応急措置を終えて戻って来た加賀は、自主練仲間であり親友の秋川に託そうと、ありったけの声で応援する。
(彼奴の前で、ぶざまな姿ばっかりじゃ、俺の立場がないな)
加賀の存在が、秋川の闘志に火を点けた。
「だあッ!」
その初球だった。スライダーが変化せずに、棒球となったのを秋川は見逃さなかった。
思い切り強振した。ドライブのかかった打球は低い軌道でセカンド頭上を越えると、急激に落下してライト前に落ちた。
「ストップ!ストップ!」
同点を確信してホームに突っ込もうとする淳を、三塁コーチャーの和田が必死に止めた。
三塁に滑り込んだ淳は、ライトの方を見た。予め浅く守っていたのか、すでに捕球してホームへと送球しようとしているではないか。
「あれじゃ、完全にアウトだな……」
淳はそう言うと、沖浜中のピッチャーに目をやった。直也と同等かそれ以上に疲弊した様相をしている。
(あれでも替えないところを見ると、奴等にはもう控えがいないのか……)
──春先の練習で対戦した時には、別のピッチャーがいたはずなのに、今日はベンチにすら入っていない。
怪我か何かで欠いたのかも知れないが、この先も続投なら、うちが勝つ可能性はさらに増していく。
(それには、何としても同点にしないと)
続くバッターは森尾。彼も何とか繋げたい思いで右打席に入った。
バットを短く握り、やや打席の前で構える。変化球の曲がり始めを叩く考えだ。
そんな森尾を一瞥したキャッチャーは、ピッチャーにサインを出した。
ピッチャーは一瞬、意外という顔をしたが、その意図するところを汲んで頷いた。
ピッチャーは余力が幾らもない身体に鞭打って、素早い動きで右腕を振り抜く。
ボールは内角高め。もはや真っ直ぐの威力は、初回よりかなり落ちている。森尾は左足をステップさせてバットを振りに行った。
バットがボール目掛けて振り出された瞬間、それは起きた。
ボールがシュート回転して、森尾に向かって来たのだ。
「ぐあ!」
左手の薬指に激痛が走った。森尾はその場にうずくまり、左手を抑えている。
バットを握った指は、ボールに当たると衝撃をモロに喰らう。たとえ軟式ボールでも、当たりが悪ければ骨折するほどだ。
「あッ!立ち上がったぞ」
幸いにも、森尾は打撲だけで済んだようだ。
痛みで顔をしかめているが、立ち上がると左手を何度か振っただけで、一塁へと向かい出す。彼としては当然、死球だと思っていた。
ところが、主審は死球ではなく森尾のスイングと判定した。