fainal2/2-46
「永井さんは、知ってたんですね!?」
訊ねる声が思わず上擦った。自分だけ知らされていない事に、腹を立てていた。
しかし、永井は首を横に振って否定する。
「いえ。知りませんよ」
「じゃあ、どうして続投を命じたんです?」
葛城の問いに対する永井の答えは単純明快だった。
「直也がうちのエースだからです」
「そ、それだけの理由で……」
言葉に詰まる葛城を余所に、永井は胸の内を語り始めた。
「彼奴の兄貴、川口信也はうちの絶対的エースでした。当然、直也もそうなりたいと挑んではいるが、信也と比べるとまだまだ弱い。
わたしはこの試合が、直也の弱い部分を昇華させ、より高みへと導いてくれるんじゃないかと解んでるんです」
さらなる成長を望む為に、あえて苦境に立たせる──まるで、古き時代の親子関係にも似た永井の想いに触れ、葛城は己の浅はかさが恥ずかしくなった。
「永井さん……」
「なんです?」
「続投の件は分かりました。でも……」
「まだ、何か?」
不審な顔をする永井に、葛城は思い切って言った。
「今後は、わたしにも相談して下さいよ!」
「葛城さん……」
「嫌です!わたしだけ蚊帳の外なんて」
「す、すいません……勝手に決めたみたいで」
どうやら自分の進め方が不味かったようだ──永井はそう思い、葛城に頭を下げた。
「もう忘れました!それよりも試合に集中しましょう」
「そ、そうですね……」
何か釈然としない永井だが、葛城の意外な一面を見たことで、それ以上は口に出来なかった。
八回裏の攻撃は五番の淳から。前の打席では、目の前で二人を敬遠して勝負を挑まれた挙げ句に打ち取られるという、忸怩たる思いをした。
(今度こそは……)
雪辱を胸に打席に入ると、その三球目をセンターに弾き返した。
「ヨシッ!同点のランナーが出たッ」
しかし、次のバッター川畑が送りバントに失敗し、七番一ノ瀬もセカンドゴロで進塁させるのがやっとの始末。
それでも、ニ死ニ塁と一応のチャンスとなったところで、バッターは秋川を迎えた。
(どうせ俺なんかが……)
再び巡ってきたチャンスでの打席だが、秋川はどこか醒めていた。
大会中、チャンスでヒット出来たのはニ本だけ。今日こそはと臨んだ試合も、未だ結果を伴っていない。
一連の流れが、秋川の心を“また凡退だろう”という負の思考に仕向けていた。
その時だ。
「秋川!肩の力抜いて練習どおりやれば打てるぞッ」
聞き違えようのない声が、秋川の心を捉えた。
「彼奴……」
秋川は振り返る。味方ベンチから、加賀が自分に声援を送っていた。