fainal2/2-45
「行け!行けェッ」
バッターと一塁側のベンチ、それに味方のスタンドが同じ願いで沸いた。対して三塁側のベンチとスタンドは、悲鳴のような声をあげている。
レフトの足立が打球に向かって後退する。フェンス間際で向き直ると、視界に落ちて来る打球を捉えた。
「ハッ!」
フェンスを背に、足立はタイミングを合わせてジャンプする。伸ばした左腕のグラブの先っぽに、打球が引っ掛かった。
「うわッ!」
打球の勢いが加わった足立の身体は、後ろに引っ張られてフェンスにぶつかった。
そのショックで、ボールがグラブからこぼれ落ちる。
「おわわッ!」
落下するボール。足立は飛びつき、何とか地面スレスレでグラブの中に収めた。
「アウト!」
審判の判定が下された次の瞬間、一塁側は落胆のどよめきがあがり、三塁側は歓声が沸くという逆転現象が発生した。
「足立、ナイスキャッチ!」
青葉中ベンチの仲間逹が、戻って来た足立を讃えた。
そんな中で、
「直也。次の回も行くぞ」
永井は、息も絶え々の直也に続投を命じた。
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
これには、さすがの葛城も感情を顕にした。
「もう疲労しきってます!すぐに替えるべきですッ」
語気を強めて異を唱えるが、永井は口を噤んだまま語ろうとしない。
「監督……」
そこに、直也が現れた。
「行けるよな?直也」
「……行きます」
直也の返事に、葛城は呆然となった。そんな中で永井は言葉を続ける。
「一人でもランナーが出た時点で、佳代と交代だ」
「分かりました」
「待って下さい!」
葛城が二人の間に割って入る。自分を置き去りにして話が進むことが我慢ならなかった。
「無茶よッ!川口くん、撤回なさい」
説得を試みる葛城に、直也は首を横に振った。
「大丈夫ですよコーチ。まだイケますから」
「何を言ってるの。あなたは充分役割を果たしたわ。もう、これ以上は無理よ」
「佳代や淳と約束したんです。俺が九回まで抑えるから、後は頼むって」
「川口くん……」
葛城は次の言葉が出なかった。
「失礼します」
直也は、一礼して葛城の下を離れていく。その背中を目で追いながら、垣間見せた強固な意志に驚嘆した。
敗けることなど微塵も考えない。勝つためにあらゆる手を尽くそうとする姿勢。