fainal2/2-44
「フンッ!」
直也は素早いステップから、右腕を振った。ボールを人差し指と中指の間に軽く挟み、リリースではスナップを効かさない──ボールの回転を少なくして空気抵抗を増す為に。
放たれたボールは、真ん中低めだった。
バッターは、左足をステップさせて打つ体勢を作った。真っ直ぐ、変化球、どちらにも対応出来るよう、ややタイミングを遅らせて。
真っ直ぐに見えたボールは、途中から勢いを失って地面に引きつけられ、バッターの足首近くまで落ちた。
打ちにいったバッターは、かろうじてバットに当てた。力無い打球が、ショートに転がった。
「だああッ!」
打球に向かって猛進する秋川。バッターも、生きようと必死になって疾る。
素早いグラブ捌きでボールを掴み、ありったけの力で一ノ瀬に送球した。
ファーストミットが鳴るのとベースを踏むのは同時だった。
「セーフ!セーフ!」
一塁々審はニ度、両手を力強く広げた。
ニ死三塁、ニ塁。続くは長打力ナンバーワンの五番バッターだ。
「まずい展開だな……」
達也は思わず呟いた。あらゆる手を尽くして抑えられない。魂を削るような投球は、徒労と化した。
直也のショックは計り知れない。が、まだ終わったわけじゃない。
「タイムお願いします」
達也はマウンドに向かった。直也の気持ちを確かめる為に。ところが、
「何しに来たんだッ」
直也に沈んだ様子はなかった。
「心配すんな……彼奴を抑えて……無得点で終わせてやる」
喘ぎながら答える眼は、まだ闘争心にまみれていた。
「真っ直ぐ三つで終わらせるぞ」
「……わかった」
互いの気持ちは決まった。マウンドを去る背番号ニに、直也は心の中で呟いた。
(やっぱりお前は俺にとって最高のキャッチャーだよ)
──だから、もっともっとこのチームで一緒に野球がやりたい。ここで終わりになんてさせない。
もうひとつの想いだけが、今の直也を支えていた。
「プレイ!」
バッターは、打ち気満々で打席についた。
何度も深く息を吐き、落ち着こうとしているのが手に取るように解る。
(真っ直ぐ三つだ!)
達也は内角高め。バッターの胸元辺りにミットを構える。ボールを叩く時、最も力が伝わり難いコースだ。
直也はセットポジションながら、軸足に充分体重をのせた投球動作でボールを投げた。
──キンッ!
内角高めのボールを、バッターは思い切り叩いた。弾き返された打球は、高々とレフトに舞った。