fainal2/2-43
(もう一球、やや外で)
達也はボール一個分、外を要求する。が、全力投球を続けている直也にとって、細かい制球は厳しく、逆に内へと入ってしまった。
──キンッ!
今度は、鋭いライナーが一塁ベンチに飛び込んだ。仲間の「前に飛ばせ」という野次が飛び交う。
(危ぶねえ……助かった)
直也は、バッターの打ち損じに胸を撫でおろす。ヒットにされても仕方がないコースだったからだ。
(タイミングが早かったようだな)
これでニナッシング、早めに追い込んだ。後はボール球を使って勝負出来る──そう思ってバッターを見た達也は驚いた。バットのグリップを、ひと握り余らせたのだ。
(四番というプライドを捨てても、奪いにくるのか……)
全国大会出場校の執念を窺わせる。しかし達也も、この程度では引き下らない。
(絶対に抑えてやる)
互いの意地がぶつかり合う。もはや真っ直ぐだけに拘らない。直也は達也の要求通り、あらゆるコース、全ての球種でバッターを牛耳ろうとした。
だが、バッターもチーム一のバットコントロールを駆使し、投じたボールに喰らいついていく。
その様相は、互いに足を止めて殴り合うボクシングのインファイトのようだ。
やがて観客から声が消えた。皆が固唾を飲んで、勝負の行方を見守った。
「ファール!」
十ニ球目の、内角高めの真っ直ぐをバッターはフルスイングした。ボールはバットの上っ面を滑り、バックネットに突き刺さった。
「ハァ、ハァ、こいつ……いつまで粘る気だ」
直也は、恨めし気な眼をバッターに向けた。息が忙しなく繰り返され、肩が小刻みに上下する。明らかに疲労しているのは彼の方だ。
状況は不利だ──達也はそう思ったが、打つ手立ては見当たらない。八方塞がりだ。
こういう場合、一か八かで真っ直ぐを要求しがちだが、それは間違いだと彼は知っている。十中八九、相手もそう思っている。
(何とかゴロを打たせないと……)
達也の要求はスピリット。落ちる球で、ゴロ、あわよくば三振を狙う配球だ。
しかし、直也は首を縦に振らない。落ちる球は失策を招き易いからだ。
(いいから放ってこい!止めてやるからッ)
直也が何度拒否しようが、達也はスピリットのサインを貫き徹す。
(わかったよ……この偏屈が)
五度目のサイン交換で直也は折れた。
(忘れるな。しっかり振れよ!)
達也は、自らの右腕を振って意志を伝える。
セットポジションに構える直也。ニ塁ライナーが、じりじりとリードを広げる。