fainal2/2-42
「タイム!」
ここを正念場と見た永井は最後のタイムを取った。
内野手がマウンドに集められ、中里が伝令で走り込んで来た。
「監督、何だって?」
まとめ役の達也が訊くと、中里は「それが……」と困惑した様子で答える。
「監督……勝負の方法はお前らに任せた。それと後は……」
そこまで言うと、急に直也の顔をじっと見て、
「葛城コーチは、思い切り腕を振って勝負しろ!だそうです」
言い終えた中里は、また困惑の表情に戻った。言葉を託された直也には、葛城の想いが胸に突き刺さった。
──長いイニングを投げようとして、いつの間にか“かわす”ピッチングをしていた自分を、コーチは誰よりも早く気づいたんだ。
ひとつのアウトを全力で奪うことこそ大事──直也は改めて初心を振り返る。
「じゃあ、四番は要警戒で後は真っ直ぐ勝負な」
マウンドに集まった内野手がポジションに戻っていく。決まったのは、作戦と呼ぶにはおこがましいほど単純極まりない、力と力の勝負。
三番バッターは、最初から焦れたような雰囲気を醸している。自分の番でタイムとなったのがそうさせていた。
(肩に力が入ってるな。こういう奴は、真っ直ぐを狙ってても打てない)
達也は握った右手から人差し指だけ伸ばす。真っ直ぐのサイン。直也は頷くとセットポジションの体勢になった。
達也は両手を広げる──何処でもこいと。
「フンッ!」
初球を投じた。思い切り、それでいて力み過ぎていない腕の振り。リリースの瞬間、指先に掛かかったボールの感触が、直也に最高の真っ直ぐだと直感させる。
ボールは真ん中高め。普段なら目を瞑りたくなるようなコースなのに、達也は“勝った”と確信した。
──キィンッ!
力みまくったバッターの振りでは、直也のボールを好打出来なかった。
「オーライ!」
サード乾が両手を広げた。バッターはバットを地面に叩きつけて悔しがる。
サードへのファールフライ。これでは、ランナーを進めることも出来ない。
何とか最初のピンチは免れたが、次こそが最大の試練だ。
「ニアウトーッ!バッター四番よッ」
ここまで、ヒットを許していないが、こういう場面を必ずものにするとデータが示している。
(こいつに、力勝負は通用しないだろう)
達也は考えた。四球でもいいから厳しいコースに真っ直ぐを集めて、勝負球はスライダーだと。
(初球は、外角低めに)
直也の投げたボールが、音を立てて迫る。左バッターにとって、右ピッチャーの投じる外角低めは、対角に入ってくる為、ストライクの見極めが難しい。
バッターは果敢にバットを出していったが、打球は三塁スタンド側に舞い上がった。