fainal2/2-31
「……!」
辛うじて残った意識が、倒れるのを食い止める。よろけながら片膝をつき、椅子に手をかけた。
「ちょっと!どうしたのッ」
「わ、解んねえ……」
答える直也の目は、視点が定まらずに泳いでいる。佳代はどうしていいのか判らず、仲間を呼ぼうとした。
「みんなには、黙ってろッ」
直也の表情は、今のが嘘のように戻っていた。
「な、なに?なんでそんなに……」
あまりの急変ぶりは、佳代の理解力を超えている。
「すぐに元に戻るんだ。だから心配しないでくれ」
「わ、わかった……」
選手全員が、まだ相手ピッチャーを注視している中で、二人はベンチに腰掛けた。
「それってさ、何かの病気なの?」
「解らないが……多分、違う」
直也は小さく頭を振った。
「どうして、病気じゃないって判るの?」
「今、思い出したんだ。前にも、この感覚に遭ってるってな」
「だったら、尚更、病院で診てもらわないとッ」
「違うんだ……」
普段、偉丈夫と思っていた。そんな仲間が見せる翳りに、佳代の胸中は不安に揺れる。
気遣いを受けた直也は、何故か急にトーンダウンしだした。
「あのよ……昨日、全然、眠れなかったんだ」
「それって……」
佳代は思わず口を噤んだ。
(いつもは強気なのに、決勝だから神経質になっちゃったんだ……)
大いなる勘違いは、彼女の中に慈愛の心を芽生えさせてしまった。
「とにかく、この話はしないでくれ」
「わかった。でも、あんまり無理しないでよね」
直也は「わかってる」と答えながら、心に疑問を持った。
(なんだ?こいつ……急に女の子っぽくなりやがって)
それは、いかにも奇異な感覚だった。
投球練習を終えて、青葉中の攻撃が始まった。
打順は六番川畑から。加賀の負傷退場後に回った初打席は、ランナーを進めるバントだったから、実質的には初打席のようなものだ。
(どんな球を投げて来るのかな……)
投球練習中、川畑はネクストからずっとボールを観察していたが、その限りでは大した球とは感じなかった。
しかし、練習と本番が同じでないことは往々にしてある事で、そこは見極めねばならない。
ましてや川畑はこの回、先頭バッターであり、一番の役割を果たす必要もある。
「お願いします!」
右打席に立ち、初めてピッチャーと対峙した。見た目は、エースピッチャー同様に小柄で細い印象だ。