投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

やっぱすっきゃねん!
【スポーツ その他小説】

やっぱすっきゃねん!の最初へ やっぱすっきゃねん! 580 やっぱすっきゃねん! 582 やっぱすっきゃねん!の最後へ

fainal2/2-31

「……!」

 辛うじて残った意識が、倒れるのを食い止める。よろけながら片膝をつき、椅子に手をかけた。

「ちょっと!どうしたのッ」
「わ、解んねえ……」

 答える直也の目は、視点が定まらずに泳いでいる。佳代はどうしていいのか判らず、仲間を呼ぼうとした。

「みんなには、黙ってろッ」

 直也の表情は、今のが嘘のように戻っていた。

「な、なに?なんでそんなに……」

 あまりの急変ぶりは、佳代の理解力を超えている。

「すぐに元に戻るんだ。だから心配しないでくれ」
「わ、わかった……」

 選手全員が、まだ相手ピッチャーを注視している中で、二人はベンチに腰掛けた。

「それってさ、何かの病気なの?」
「解らないが……多分、違う」

 直也は小さく頭を振った。

「どうして、病気じゃないって判るの?」
「今、思い出したんだ。前にも、この感覚に遭ってるってな」
「だったら、尚更、病院で診てもらわないとッ」
「違うんだ……」

 普段、偉丈夫と思っていた。そんな仲間が見せる翳りに、佳代の胸中は不安に揺れる。
 気遣いを受けた直也は、何故か急にトーンダウンしだした。

「あのよ……昨日、全然、眠れなかったんだ」
「それって……」

 佳代は思わず口を噤んだ。

(いつもは強気なのに、決勝だから神経質になっちゃったんだ……)

 大いなる勘違いは、彼女の中に慈愛の心を芽生えさせてしまった。

「とにかく、この話はしないでくれ」
「わかった。でも、あんまり無理しないでよね」

 直也は「わかってる」と答えながら、心に疑問を持った。

(なんだ?こいつ……急に女の子っぽくなりやがって)

 それは、いかにも奇異な感覚だった。

 投球練習を終えて、青葉中の攻撃が始まった。
 打順は六番川畑から。加賀の負傷退場後に回った初打席は、ランナーを進めるバントだったから、実質的には初打席のようなものだ。

(どんな球を投げて来るのかな……)

 投球練習中、川畑はネクストからずっとボールを観察していたが、その限りでは大した球とは感じなかった。
 しかし、練習と本番が同じでないことは往々にしてある事で、そこは見極めねばならない。
 ましてや川畑はこの回、先頭バッターであり、一番の役割を果たす必要もある。

「お願いします!」

 右打席に立ち、初めてピッチャーと対峙した。見た目は、エースピッチャー同様に小柄で細い印象だ。


やっぱすっきゃねん!の最初へ やっぱすっきゃねん! 580 やっぱすっきゃねん! 582 やっぱすっきゃねん!の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前