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やっぱすっきゃねん!
【スポーツ その他小説】

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fainal2/2-28

(思いっきり粘ってやるか)

 乾はバットを短く握り、森尾と同様、ペースに寄った。沖浜中バッテリーは、左にゴロを打たせての併殺狙い。故に、外角を主体とした配球を考えていた。
 初球はカットボールだった。左打者からすれば、外へと滑りながら沈むという厄介なボール。しかし乾は、簡単にバットに当てた。

(初回の頃より、キレが落ちてる……)

 そこからは、様々なコース、様々な変化球を混じえて打ち取ろうとするのだが、乾は、その尽くを正確にカットした。
 ピッチャーの“相手を牛耳ってやる”、バッターの“どんなボールでも捉えてやる”、という意地のぶつかり合い。
 それは、互いが息を継ぐのも忘れるほどの緊張を強いていた。
 そうする内に、ピッチャーの息が上がりだした。

(ひょっとしたら……)

 喘ぎ、肩を上下させる姿には疲労の色が濃く滲んでいる。
 その時、乾の中に“余計な欲”が芽生えてしまった。
 一方、沖浜中バッテリーは苛立ちを隠せない。
 あらゆる球をカットされ、次は何を投げればいいのかさえ悩む始末。だが、ここ一番で頼れる球はカットボール以外にない。二人には、信じて投じるより手立てはなかった。

 ピッチャーは渾身の力で右腕を振った。ボールは外角低め。乾は、待ってました!──とばかりにバットを振り出した。
 ところが、ボールは予想した以上の変化をしたため、バットの下っ面に当たってしまった。

「なんでだよッ!」

 打球は、ショートへの平凡なゴロ。乾は、併殺させまいと必死になって一塁に疾った。

「何やってんだよォ!」

 青葉中ベンチから、嘆きを含む怒声が一斉に挙がった。
 ゴロを捌いたショートが二塁に投げると、セカンドは駆け込みながらボールを捕って二塁を踏み、左に反転してファーストへと送球した。
 しかし、わずかに及ばず併殺は叶わなかった。

「ハァ、ハァ……色気を……みせた途端これかよ」

 かろうじて残った一塁で、乾は己の未熟ぶりを悔いた。

(だが、免れた以上は、やってやらんと……)

 しかし、嘆いてばかりはいられない。すぐに気を取り直し、リードを取りだした。
 次のバッター足立は、早くもバントの構えを見せている。ここで進塁を決められると、その後の直也と達也は厄介だ。
 当然、沖浜中バッテリーは全力で阻止にいく。

 サードとファーストが、かなりの前進守備を敷く中、ピッチャーは高めを狙って真っ直ぐを投じた。
 すると足立はバントの構えから一転、頭の後ろまでバットを引いてヒッティングに切り替えてきた。
 サードとファーストのスパイクの爪が地面に食い込み、飛沫のように土が飛び散る。
 鋭い打撃音と共に、サードを掠めるような打球がファールゾーンに飛んだ。
 舞う土埃を間に挟み、サードと足立との距離はわずか数メートル。もし、打球が正面に飛んでいたら、反応する間もなく餌食となっていただろう。

 これでは圧力が掛けられない。沖浜中は仕方なく中途半端な前進守備に変更した。
 足立はカウントを稼ぐことで球数を放らせ、最終的に六球目で送りバントに決めた。
 これでニアウトニ塁。永井の思惑どおりに事を進めた結果、チャンスまで転がり込んで来た。


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