fainal2/2-22
「ありがとよ……」
最後尾に省吾がいた。直也はタッチを交わすと、意気込みを言葉で表す。
「まだニ点あるがな。必ず逆転する」
強い信念を聞いて、省吾は自分に何が欠けていたのかを気づいた。
「頼んだぞ」
「任せろ。絶対にひっくり返してやる」
認め合う者同士が絆を確かめ合う。そんなところに、
「さっすがァ!好きな人が応援してると頑張りが違うねッ」
佳代が、雰囲気を台無しにして入ってきた。
「佳代!き、きっさまッ」
直也の顔はみるみる真っ赤になった。激昂にまかせて佳代の右腕を鷲掴みにすると、ベンチの奥へと引き擦っていった。
「痛い!痛いってばあッ」
いつもの騒々しさがまた起こった。残された省吾は、失笑せずにおれなかった。
一点を奪い返してバッターは四番の達也。目の前で見た直也の一発に、自分も続くぞと気を漲ぎらせる。
打席に入り、バットを高く構えた。左足のスパイクは、小刻みに地面を掻いてタイミングを測っている。そのさまはまるで、マタドールと対決する闘牛のようだ。
達也は展開を読む。バッテリーには前の打席で、外角の真っ直ぐをニ塁打にされた印象が強烈に残っている。だから、ここで外の真っ直ぐはこない。投げるなら変化球だと。
(おそらく、外は見せ球だろう)
達也の予想した通り、バッテリーは初球に外角のスライダーをもってきた。達也は思い切り空振りした。
ニ球目は外角の真っ直ぐ。今度は踏み込んだだけで、バットは振らなかった。
そして三球目。充分、外を意識させたと見たバッテリーは、一転、内角へのカットボールで勝負に出る。
しかし、達也は初球を空振りする布石を張り、これを待っていた。渾身の力がバットに乗り移ってボールを捉える。
──キィン!
掌には、充分すぎるほどの手応え。弾かれたボールが空気を裂いて飛んだ次の瞬間、
「ああッ!」
達也は絶句した。打球は吸い込まれるように、サードのグラブの中だった。
一瞬の絶叫が瞬く間に落胆の声へと変った。左右のどちらか一メートルでも逸れていれば、長打は確実だっただけに悔しさもひとしおだ。
しかし、達也は落胆などしていなかった。
──今頃、ピッチャーの心臓は激しく動悸しているはずだ。直也と俺に自慢の決め球を打たれたことで、酷く動揺していることだろう。
カットボールさえ攻略すれば、卓越した制球以外は並みのピッチャーだ。必ずつけ入る隙が生まれて打ち崩せるはずだ。
達也の読みどおり、ピッチャーは動揺していた。
淳をむかえて勝負球にカットボールを用いたが、力みから変化が甘くなってしまい、見事に打ち返されてしまった。