fainal2/2-21
(小さく。小さく振れ……)
確かめるように素振りをして打席に戻ると、
「ヨシッ、来い!」
声を発して気合いを入れた。頭の中に、レフト前に落ちる打球のイメージが出来上がっていた。
キャッチャーは、直也のスタンスや構えをチェックして、狙いを外そうと考える。
ピッチャーも、打者の反応具合からおおよその狙いを察知し、有効な球種を独自の判断を下す。時には要求を退けて、自我を押し通す場合もある。
(さあ、来いよ……)
ピッチャーが、右足をプレートの中央に乗せた。球種を悟らせない配慮だ。
左足が上がり、投球動作に入った。直也はスクエアだった重心を軸足である右足に移動させ、ステップの準備をとる。
ピッチャーは左足を大きく踏み出すと、やや、中心をズラして握ったボールをリリースの瞬間、中指と薬指の間から斬るように投じた。
直也は左足をステップさせながら、投げたボールを見極める。内角への甘いコース。
(来たァ!)
腰の回転に伴い、後ろにねじっていた上体を一気に反転させて、身体に巻きけるようにバットを振りだす。
(内側に五センチ、ボールの下っ面狙い……)
ボールの変化する軌道を予測し、その位置にバットを合わせるよう振ると、ボールはまるでバットに吸い寄せられるように変化した。
──キィン!
喚声を割って、強い金属音がグランドに響いた。
掌にかかる強い感触。インパクトの瞬間、右手首を返さず思い切り押し込むと、打球は直也のイメージに反して遥か上空に吸い込まれた。
レフトはポール際まで追って打球の行方を傍観した。
レフトポールから大きな音が響き、ボールがグランド内に落ちてきた。
「有理!見た今のッ」
「ボール……あんなに飛ぶの初めて見た」
衝撃ともいえる一発に、観客は一瞬、静まり返る。が、次の瞬間、三塁スタンドから割れんばかりの喝采があがった。
有理や尚美はもちろん、修たち下級生も、手を取り合って全身で歓びを顕す。それはまるで、ここまでの鬱積をすべて吐き出すようだった。
「やった、やった!」
全速で疾っていた直也は、三塁々審が右手を上げて回しているのを見て、ようやくホームランなんだと気づいた。
途端に喜びが爆発した。自分でも気づかぬうちに拳を何度も振っていて、平静でいることが出来なかった。
「ナイスバッティング!」
生還すると、次のバッター達也が右手をあげて笑顔で出迎えた。直也はタッチを交わしてバトンを渡した。
「よかったぞ直也!」
ベンチでは、仲間達が列をなして待っていた。タッチを交わす一人々の顔に闘争心が甦った。