fainal2/2-17
「お前は昨日も投げてるんだ。長い継投は……」
直也は、昨日の準決勝戦を一人で投げている。そして今、継投すれば、長いイニングを受け持つこととなる。
連日の登板は肩や肘に必要以上の負担を強いることになり、その弊害がどのように顕れるのかは未知数である。下手すると、将来に不安を残す可能性も考えねばならない。
悲観的要素を並べたてる永井を、直也は一笑に附して相手ベンチを指差した。
「大丈夫ですって!彼奴らより大事に使ってもらいましたから、多少の無理は利きます」
確かに、沖浜中のピッチャーは大会中盤以降を、ほぼ一人で投げ抜いている。
他所でも強豪と呼ばれるチームの殆どは、エースが一人で投げ抜くパターンが大勢を占めており、むしろ青葉中のような複数分業制を採るチームは珍しい。
最初に、分業制を唱えたのは前青葉中監督の榊だ。彼は常々「優れた投手でも生身の人間だ。将来を潰しかねない起用はしない」と、一人に任せる方針を毛嫌いした。
そのおかげか、ずっと大きな故障者もなくここまで来れた。
「ヨシ、直也。すぐに準備にかかれ」
「はいッ!」
永井は決断した。勝てる見込みもなくなっては分業制もへったくれもない。ここは、榊の教えを封印しようと。
ベンチで際どい結論が下されている頃、グランドでも、選手達は緊迫感あふれる状況下で戦っていた。
再開後、省吾は必死になって投げた。
忘れられないからこそ厭な事であり、忘れられる事など、そもそも大した事ではない。
それほど彼にとって、初回の失点は深く胸に刻まれていた。
だからこそ拭い去りたい一心で、がむしゃらになって腕を振った。
そんな思いが功を奏したのか、ホームランを打たれた一番を三振に、ニ番をファーストゴロに斬ってとる事が出来た。
「あと、ひとつだ!緩めんなッ」
ニアウト三塁、ニ塁。バッターは三番。
ここを乗りきれば、再び盛り返せるという大事な正念場──誰もの気が引き締まる。
バッターは鋭い眼光で省吾を睨みつける。一打席目のバント失敗の雪辱に燃えていた。
(ボールから入るか)
慎重にいかねば──達也はそう感じた。が、その気持ちを誰よりも向けるべき存在のことに、何故か頭がいなかった。
光明を見出だしたことで配慮を欠いていた。
(零点にして、ミスを帳消しにしてやる……)
それまで無心だった省吾の中に、変な欲が芽生えていたのを見抜けなかった。
──キンッ!
強い金属音が鳴った。三球目のカーブが甘くなったのを、バッターは見逃さなかった。
打球はライトとセンターの間を破り、フェンスにまで達する長打となった。
「そんな……」
茫然と打球を見つめる省吾。三塁ばかりか、ニ塁ランナーも生還し、打ったランナーもニ塁に達した。
初回の先制に続いて、三回の追加点。沖浜中のベンチと一塁側スタンドは、あらん限りの声を発し、この理想的な展開を手放しに歓んだ。