fainal2/2-16
(これで、しばらくはリードを控えるだろ)
左ピッチャーは、一塁ランナーの動きが目につく為、バッターへの集中が殺がれ易い。達也は、これで少しは専念出来るだろうと思った。
キャッチャーは、バッターとの駆引きばかりでなく、守備全体の目配りも大切なポジションであり、だからこそ“守備の要”と呼称される。
ニ球目も高めの真っ直ぐを投げたが、バッターは再び見送った。
(これで一ストライク一ボール。やるなら次あたりだな)
達也は三たび、真っ直ぐ高めで勝負した。
省吾がセットポジションから素早く投球動作に移った瞬間、バッターがバットを後ろに引いた。
(しまった!)
ボールを叩きつけた。打球は高く跳ねて右にとんだ。
かろうじて森尾が打球に追いつくと、省吾はマウンドから一塁へと全力で疾った。
「省吾ッ!」
省吾は森尾の送球を掴んで必死にベースを踏んだが、一歩及ばずランナーが先に疾り抜けていった。
無死ニ塁、一塁で、初回にホームランを浴びた一番という展開に、沖浜中の応援スタンドは、最高に盛り上がっている。
「不味いな……」
永井の目には、不安と緊張に臆した選手達が映っていた。
「タイムッ!」
永井は迷わずタイムを採った。試合中、守備のタイムは三回まで。青葉中は、早くもニ回目を行使したことになる。
内野手が一斉に省吾の下へと集まった。今回は直也が伝令役に出た。
伝言された内容は「ランナーは気にせず、バッター勝負を優先して低めに攻めろ」など、些細な内容で、主な目的は選手達の不安を取り除き、当たり前の守りをやらせる為である。
「じゃあ、しっかりな!」
直也は一人々と目を合わせてから、最後に省吾の目を見ると、
「今日のお前なら、大丈夫だからな」
ひと言励ましてマウンドを後にした。
「大丈夫……か」
遠ざかる直也の背中に、省吾はぽつりと呟いた。
「監督!」
ベンチに戻った直也は、すぐに永井の下に駆け寄った。
「ブルペンで、準備にかからせて下さい」
「まだ追加点も奪われてないのにか?」
「省吾……稲森の目に、力がありません」
「なんだって?」
「いつもは反発的な眼を俺に向ける奴が、今は全く見せてこなかったんです」
認め合う存在だからこそ気がつく些細な異変は、永井にとって重大な衝撃だった。
──ここで追加点を許せば、うちは更に追い込まれる。三点差がついたら、おそらく勝てる見込みは限りなくゼロに近づくだろう。だったら、早めに次の手を打って攻勢に出なくては。
しかし、ひとつ気掛かりな点があった。