fainal2/2-14
「回れ!回れェッ」
コーチャーの和田が、右手を勢いよく回して“行け”と指示する。加賀はスピードを落とさずに三塁を蹴った。
ライトが突っ込む。転がって来たボールをグラブですくい上げ、勢いのままホーム目掛けて投げ返した。
加賀が必死の形相でホームへと突進する。ボールが、低い軌道を描いてキャッチャーに返ってきた。
加賀は膝から滑り込んだ。キャッチャーはホーム手前でしゃがみ込み、生還を阻止しようとブロックする。
鈍い衝突音とともに、激しくぶつかった二人は倒れ込んだ。
「アウト!」
再び、三塁スタンドを落胆のどよめきが占めた。対して一塁スタンドを歓声が埋めつくした。
「かあ〜!惜しかったなァ」
嘆き声がベンチを支配する中、佳代の目は別のものを見ていた──倒れたまま動かない加賀を。
異変を感じた主審が、救護班を呼び寄せた。
「ど、どうしちゃったんだろう……」
「今のクロスプレイで、どっか痛めたかな」
救護班の手を借りて、加賀はようやく身を起こしたが、立つことに躊躇しているようだ。主審が青葉中ベンチを呼ぶと、ただちに川畑と中里が手助けに向かった。
「加賀さん、大丈夫ですか?」
「膝をやっちまったみたいだ……」
立ち上がろうとする加賀の顔が痛みに歪んだ。川畑は身体の状態を把握し、ベンチに向かって“バツ印”を示した。
「参ったな……」
永井の胸に暗澹たる思いが広がった。昨年の大会がデジャブのように甦る。
あの時は、レギュラー三人を試合中の怪我で欠く事となった。そして今、同じように加賀を失った。
「どうします?澤田さんを使いますか」
葛城が決断を迫る。
「……いや、川畑でいきましょう」
直ちに伝令が送られ、加賀と川畑の交替を告げた。
「しかし……川畑くんだと、打線のつながりが」
葛城が異を唱えた。永井は、視線をグランドに向けたまま答える。
「病み上がりに無理はさせられません。だから佳代はピッチャー、それも一イニング限定以外では使いません」
昂然とした態度。永井の言葉は、葛城を少なからず驚かせた。
「やりたい気持ちはあるでしょうが、一時の感情に負けて潰すわけにはいきません」
「監督……」
いつしか、葛城の眼は敬愛の色に染まっていた。
「この話はこれで終いです。試合に集中しましょう」
「はい!」
攻守が交代し、川畑が元気よくライトに駆けていく。それを見たスタンドの観客から温かい拍手が送られた。