拾い物-15
深く暗い地下……そこの広間に黒づくめの影がいくつか膝まづいて頭を垂れていた。
「それで?逃げて来た訳ですか?18番は殺せと言っておいた筈ですがねえ」
椅子に座った、首領らしき男が礼儀正しくも棘のある声で影達に言う。
たっぷりとしたローブにフードを被っているので風貌は全く分からないが、ひじ掛けをトントン叩く指が男の苛立ちを表していた。
「申し訳ありません」
ひとつの影が頭を垂れたまま答えた。
「18番と一緒に居たのは冒険者ですか?」
「はっ。男女の2人組で男の方は小柄なクセに軽々とバスタードソードを操る奴でして……」
影の言葉を男は片手を上げて止める。
「その男は灰色の髪に蒼い目でしたか?」
男の質問に影は記憶を辿った。
「……ええ、そうですが」
影の答えを聞いた男の顔がグニャリと歪む。
それは見る者を恐怖に陥れるような異様な笑顔……幸いな事に影達は頭を垂れていたので、男の表情を見る事は無かった。
「……暫く18番は泳がせておきましょう……ご苦労様」
男の許しが出て影達が動き出す。
「ああ、そうだ……次、失敗したら貴方達を細かく切り刻んで魔草の肥料にしますんで……覚えておいて下さい」
脅しでも何でもない……この男はやると言ったら必ずやる。
「心得ました」
影達はもう一度深く頭を垂れてから、そそくさと広間を出ていった。
「くくっ、怖っ」
静かになった広間に笑い声が響く。
「貴方がついて行ったのにこの有り様とは……情けないですね」
「俺の仕事は暗殺者(アサッシン)指導だ。今回は向いてる奴が居るかどうか見に行っただけ」
「成る程」
声だけの相手に男は納得して椅子から立ち上がる。
「……あのチビはアンタの何だ?」
その男に声の主は問いかけた……声の主は男の異様な笑顔を見ていたのだ。
「……ゼロ……とだけ言っておきましょうかね」
曖昧な答えを返した男は、思いついたように声の方に視線を向ける。
「18番がどこに居るか見張っておいてもらうと助かるんですが?」
「ああ……良いぜ?定期的に鳥を翔ばそう」
「頼みます」
男はそう言ってそのまま空気に溶けて消えた。
「……ゼロねぇ……」
声の主……スランは小さく呟く。
追いかけていた奴隷が『18番』と呼ばれていたので『ゼロ』と言う事は初めの頃の奴隷か……まあ、男の方には興味はない。
興味があるのは女……カリーの方だ。
あの男にとってはカリーは眼中にも入らない存在。
次、仕掛ける時は真っ先に消去されるだろう。
18番を暫く泳がせる、と言っていたのでカリーを手に入れるなら今しかない。
暫くするとスランの気配も消え、地下の広間は暗闇と重い静寂に包まれたのだった。