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王国の鳥
【ファンタジー その他小説】

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南風之宮にて 終-1

※※※


 そわそわと室内を歩き回っていたハヅルは、あるとき、意を決して扉に手をかけた。

「落ち着いて待ちなさい。先触れが来たらちゃんと知らせますから、門前で一緒にお出迎えしましょう」

 落ち着いた声音でハヅルを制止したのは、城の主である現ガレン公本人だった。
 柔和な顔つきの、まだ三十をいくつか過ぎたばかりの若い領主だ。
 彼の座る車椅子の脇には、優しげな公妃が寄り添って立っている。
 生来の病のために自由に体を動かすことができず、筋肉が衰え、近年では車椅子から立ち上がることもできないのだ、とハヅルは彼自身の口から聞いた。
 もちろん馬にも乗れず、剣を握ったこともない。
 屈強な騎士団を率いることなどできるはずもなく、女騎士である公妹が代理としてその役を担っている。
 ただし統治の手腕は確かで、街の整備と特産品である繊維産業を推し進める政策がうまく運んでいるために領地の経済状態はきわめて良好、領民や騎士団からも慕われている……というのは、予備知識としてハヅルが持っていた情報だ。

 彼さえいなければ、すぐにも変化して王女たちのもとに飛んで行けるのに。
 というのが、口にはできないがハヅルの本音だった。

 報告の早馬が、兄妹の無事を告げたのは数時間前のことだ。
 騎士団は南風之宮へ向かう道中にエイを拾い、共に襲撃者を捕縛し宮の人々の救出に成功した、と伝令の騎士は伝えた。
 そして、用意が整い次第、王家の兄妹をこの城に保護するために宮を出発する、と。

 それからというもの、外へ飛び出そうとする彼女を公が止めるこのやりとりは幾度となく繰り返されていたのだ。

「公、先刻から言っているとおり私は、」

「王女殿下の警護役とはいえ、つい先程まで寝込んで動けもしなかったお嬢さんを、一人で外へは出せませんよ」

 体は青白くやせ衰えており、口調もひそやかで力強くはないのに、彼の言葉には逆らいがたい響きがあった。

 ハヅルはどう言い返そうかと悩んだ。
 ツミの一族は、お嬢さん、などと片付けられるような存在ではない。人間の娘が無防備に一人旅をするのとはわけが違う。
 だが、一族の秘事を語らずにそれを納得させる文言はなかなか思い付かなかった。

 何と言っても、公の言葉がまぎれもない事実だというのが痛い。
 昨夜、公が援軍の出動を約束して、安堵で肩の力が抜けた……と思った瞬間から今日の正午近くまで、彼女は正体もなく眠り込んでいたのだ。
 おかげで体力はすっかり戻ったが、普通の人間が気絶するほどの疲労で寝込んだ場合、数時間休んですぐに回復するものではないらしい。ガレン公の手配した医師は、起きるな休めの一点張りだった。
 不満げな彼女に、公は付け加えた。


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