南風之宮にて 終-3
ぞろぞろと移動を始めた親衛隊をよそに、王女は彼女らしくもない優雅さを欠いた動作でハヅルに駆け寄った。
「ハヅル!」
「姫……」
王女にしては落ち着きのない様子に、ハヅルは面食らいながら頭を下げた。
「エイから話は聞きました。とてもがんばったのですね。えらいわ」
エイの名に、ハヅルは表情を曇らせた。
「彼の足手まといになってしまって……情けないです」
「何を言うの。お前が援軍を呼んでくれたから、わたくしたちは助かったのよ。それに」
王女は一旦言葉を切ると、そっとハヅルの手をとった。
「お前が無事で何よりです。とても心配していました」
手を包み込む王女の手指の温かさに、ハヅルは不覚にも感動を覚えてしまった。
王女が無事である事実が胸に沁みとおって、喉元につかえていた冷たい何かを、融かしていく心地がしたのだ。
自覚しているよりもずっと、自分は彼女の身を案じていたのだとハヅルは初めて気付いた。
「姫も……」
姫も無事でよかった、そう言おうとした声がうわずって震えていて、ハヅルは思わず口を閉ざした。
言わなくとも、聡い王女には伝わっただろう。彼女は深い慈しみの眼差しをハヅルに注いでいた。
ひとしきり無事を喜び合ったと思うと、王女はふとハヅルの手を握ったまま振り返った。
「アハト、こちらにいらっしゃい」
王女は、王子の背後に控えていたアハトを手招きした。
「彼もずいぶん心配していたのですよ。安心させておあげなさい」
そう言って微笑むと、彼女はハヅルの手をぱっと放した。