南風之宮にて 5-13
戦局は一気に決した。
日が昇りきったころには敵は騎士団に制圧された。生き残ったものが捕縛され、一カ所に集められていく。
梯子を下ろして奥の院から本殿跡の瓦礫に降り立った王子たちのもとに、騎士団を指揮していた小柄な騎士が進み出た。
兜の面頬をおろしていて顔はわからない。
「王子! 王女! お二方ともお怪我はございませんか?」
凜々しい女の声が響いた。
王子は最初、驚いて王女と顔を見合わせたが、すぐに何かに気付いたようにぽんと手を打った。
「そうか。ガレン公の騎士団と言えばお前だったな」
「お久しぶりです、王子」
女騎士は兜を外して脇に抱えると、王子の前に膝をついた。
まだ二十歳前後と思しき、若々しい娘だった。
こぼれ落ちそうに大きな目は優しい青色をしていて、長い栗色の髪は丁寧に編み込んで頭に巻きつけ、きっちりとまとめられている。
表情は緊張と戦闘の高揚にこわばっているが、顔立ちそのものは子供の人形に似て幼げに見えた。
ガレン公の年の離れた妹姫だった。病弱な公を軍事の面で支える勇猛な女騎士として、王宮でも有名な人物だ。
滅多に王都に出てくることはないが、王家の兄妹は二人とも彼女と面識があった。
父親である先代のガレン公が存命の時代、王宮に出仕してきた際に、子供たちを共に連れてきたことがあるのだ。
「確か、幼い頃に妹と三人で遊んだな」
「ご記憶いただいておりましたか。身に余る光栄です」
実際には、年上の彼女が幼い双子と遊んでくれた、というのが正しかったが、彼女はもちろんそんな訂正はせず、微笑んで頭を垂れた。
捕縛の手伝いを終えたエイは王子よりも先に、アハトを見つけて駆け寄った。
親友の元へ駆けつけて無事を確認したいのは山々だったが、もう騎士団の代表と会話が始まってしまっている。
怪我が無い様子なのは遠目にもわかったし、真っ先にアハトに伝えなくてはならないことがあった。
「アハト」
「……エイ」
エイの顔を見るなり彼は、ハヅルは、と訊ねようと口を開いた。
だがエイは彼より先に答えを口にした。
「ハヅルは心配しないで。ガレン公に目通りするまではがんばって起きていたんだけど、援軍が出ると決まったらほっとしたみたいで」
糸が切れるようにことんと、いきなり倒れてしまったのだ。
道中、徒歩で街道を目指していた彼を拾ったガレン公の公妹はそう告げた。
今はガレン公のはからいで城の一室に寝かせてあるという。
エイは簡単に経緯を語った。
「以前の君と同じだと思う。ゆっくり寝ていれば回復するんだろう? きっと今ごろ目を覚ましているよ」
「そうか。よかった」
アハトが素直に安堵の息を洩らすと、エイは少し驚いたように目を丸くした。
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