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王国の鳥
【ファンタジー その他小説】

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南風之宮にて 5-12

※※※


 根比べ、という王子の言葉通り、攻防は一進一退のまま夜が白み始めていた。
 武器や燃料、食糧に関してはまだ余裕がある。
 兵だけならば、やろうと思えば何日でも籠城戦のできる環境だったが、奥の院に詰め込んだ一般参拝客はそうはいかない。
 今のところ、宮の司を中心とした神官たちが宗教的見地から彼らを落ち着かせているが、一歩表に出れば戦闘が繰り広げられている緊張状態だ。そう長く閉じ籠もってはいられないだろう。
 王子は面に出さないよう努めてはいたが、この場の責任者として焦りを感じ始めていた。
 誰よりも近しい双子の王女にはそれが伝わっていた。
 彼女は心配そうに兄に寄り添い、そっと腕に触れた。

 朝日の光線がひとすじ、山を白く染めた。
 最初にそれを発見したのは参道の向こうを見張っていた視力の良い親衛隊士だった。金属の反射光が、美々しく参道にきらめいたのだ。
 それは見る間に、ぞろぞろと長く続く騎馬の軍勢へと姿を変えた。

「来ました、王子!」

 報告というより、それは歓声だった。
 王子と王女のみならず、その場の全員が参道の見える場所へ殺到する。
 王子は早足で近付いてくる未だ米粒のような騎馬隊を睨みながら、傍らのアハトに質した。

「アハト、どうだ」

「ガレン公の紋章です」

 アハトはそう請け合った。
 急いで来たためか旗までは掲げていないが、先頭の騎士の馬具と甲冑に、確かにガレン公の紋が描かれている。

 王子はやれやれと息を吐き出した。

「ずいぶん大部隊で来たな。エイとハヅルはうまくやってくれたようだ」


 参道から広場に姿を現した騎士団の姿に、敵軍は明らかに動揺を見せた。
 もともと、味方だった魔族の大軍が謎の爆発でほぼ全滅し、残った数体も退治され、百人にも満たないはずのロンダーン兵の激しい抵抗で数を減らしながら攻城戦を強いられ……と、体力のみでなく心理的な負担も増していたところへの援軍の到着だ。
 これで終わった、という印象が強く刻み込まれていた。

 新たに現れた騎士団が、戦意の消沈した軍隊をみるみるうちに平らげていく。

 中に一人だけ鎧を着けていない平服の少年がいて、やたらと目立っていた。
 装いのためばかりではない。暁の薄明に浮き上がる灰色の髪と……悪鬼のごとき闘いぶりが俯瞰でも明らかだったからだ。

「来たな、エイ」

 王子は破顔してそう呟いた。

 彼が白く光芒を描いて敵陣に突っ込む先から、赤く染まった道が切り開かれていく。
 上から見ていると、彼の通過に敵軍が道を開けているようでもあった。実際、逃げ腰になって避けている者もいただろう。

 アハトは王子の隣で騎士団の陣容を眺めながら、気付かれぬ程度に眉を寄せた。ハヅルの姿が見えない。
 乱戦のさなかとはいえ、表に出ていればアハトの視力ならば見つけられるはずだった。この局面でおとなしく引っ込んでいる性格でもない。



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