浄化-1
『Simpson's Chocolate House』の駐車場で龍は真雪の帰りを待っていた。
「お帰り、真雪。」
「龍。」真雪は笑顔を作って龍に駆け寄った。龍は真雪の手を取った。「会いたかったよ。」
真雪の胸の奥に、針で刺されたような鋭い痛みが走った。
龍はシンプソン家の夕餉に混じっていた。
「龍、きっと溜まってるぞ、マユ。」健太郎が言った。「今夜は眠らせてもらえないかもな。わっはっは。」
「もう、ケン兄ったら。」
「どうやった?真雪、実習は。」
「う、うん。とても役に立つ実習ばっかりだった。いっぱい勉強になったよ。勉強に・・・・。」
「そうか。」ケネスはテーブルのワイングラスを手に取った。真雪はそんな父親の仕草をちらりと見て、すぐに目を伏せた。母親のマユミがそれに気づいたが、特に何も言わなかった。
「龍、高校は楽しそうだな。」健太郎が今度は龍に向かって言った。
「う、うん。」
「写真部なんだろ?どんなもの撮ってんだ?」
「風景とか、いろいろだよ。」
「日曜日に白鳥を撮りに行ったって言ってたじゃん、龍。」真雪が言った。しかし龍と目を合わせなかった。
「え?ああ、そうだったね。」龍は言葉少なにそう言った後、箸を置いた。「ごちそうさま。美味しかったです、マユミおばさん。」
「そう。良かった。先にお風呂いいわよ。」
「うん。じゃあ、先に。」
台所に立って、二人で食器を片付けながらマユミは真雪に向かって言った。
「何かあったのね。」
「え?」
「雰囲気が変。」
「そ、そんなこと・・・・。」
「あなた食事の時、一度も龍くんと目を合わせなかったじゃない。」
「そ、そうだったっけ?」
「それに龍もな。」二人の背後から声がした。残った食器を運んできた健太郎だった。「お前たち、離れている間に、何かあったんだろ?」
真雪は黙っていた。
「そのままにしといちゃいけない気がするな。」健太郎が言った。
真雪は一つため息をついた後、小さく言った。「あ、あたし・・・、実は、」「ちょっと待った!」健太郎が制止した。
「まずは龍と直接話せ。」
「ケン兄・・・・。」
「俺たちが話を聞くのは、その後。」
「いってらっしゃい、龍くんのところに。」マユミが優しく真雪の肩に手を置いた。
「う、うん。」