浄化-4
暖炉の前のカーペットに二人は並んで座っていた。ぱちぱちと燃える暖炉の火を見つめ、右手で龍の手を強く握りしめながら、真雪は実習の時の出来事を話し始めた。時々声が詰まり、また涙ぐんだりもしながら、長い時間を掛けてようやく彼女は話し終わった。大きく一つ、長く震えるため息をついた後、真雪はトレイからホットチョコレートの入ったカップを手に取った。龍の手を握った手を放すことなく。
「マユミおばさんの作るホットチョコレートは、いつ飲んでも最高だね。」龍も片手でカップを持ち上げて言った。「真雪、君が今抱いている罪の意識は、半分は俺のせいだ。」
「え?」真雪は顔を上げた。
「俺が君に電話をした内容、あまりにも無神経だった。今になって言っても遅いけど・・・。」
真雪は黙ってうつむいた。
「君が俺のことを想う気持ち、俺、過小評価してた。」
「ううん、違うの。確かにあたし、龍がカスミ先輩のことを嬉しそうに話すのを聞いて、胸が燃えるように熱くなった。でも、だからといってそれはあたしがあんな人に抱かれる理由になんかならないもの。」
「俺、君をもっと愛したい。愛しとけば良かった。」
「龍・・・・。」
龍はカップをトレイに戻した。
「そうすれば、君を迷わすことなんかなかったのに。そう思うと俺、情けなくなってくる。」龍はうつむいた。 「君が迷ったのは、お酒のせいなんかじゃなく、間違いなく俺のせい。」
真雪もカップを置いた。「でも、」
龍は真雪の言葉を遮り、まっすぐに目を向けて、強い口調で言った。「君だけに苦しみを味わわせるの、俺、いやだ!」
「龍・・・・。」
「だから、俺も苦しみたい。真雪と一緒に苦しみたいよ・・・・。」
龍の目に涙が溜まっているのを見た真雪は、彼の背中に腕を回し、そっと抱きしめ、右頬を龍の首筋に当てた。龍の瞳からこぼれた雫が真雪の耳に落ちてつっと流れた。
「龍・・・。ありがとう・・・・。」
「そうじゃない、って思っても、そういうことにしておいてよ、真雪。その方が俺も、救われる・・・・。」
真雪は手を龍の両肩に置き直して言った。「・・・・あたし、もっと強くなりたい。」
龍は顔を上げて真雪の目を見た。
「信じる力を持ちたい。もっと。」
「俺ももっと信じたい。真雪のことも自分の気持ちも。」
真雪の左手が龍の頬に触れた。「真雪・・・。」龍が小さく言った。
真雪は彼の唇に自分のそれを重ねた。龍は真雪の背中に腕を回し、強く抱きしめながら、彼女の口を吸った。真雪も龍の唇を強く吸った。そして二人はそのままそこに倒れ込んだ。
下になった龍が真雪の耳元で囁いた。「ここでやるの?叔父さんや叔母さんに聞こえちゃうよ、俺たちの声や音。」
「別にいいんじゃない?秘密にするようなことでもないんだし。」
「えー、何だか恥ずかしいよ。」龍は赤くなった。
「やった!あたしの龍に戻った!年下の龍に。」真雪は小さく言って龍の背中をぎゅっと抱きしめた。
龍が真雪にまた囁いた。「ねえねえ、やっぱり部屋に行こうよ。」
真雪は少し考えた。そして言った。「そうだね。」