実習-7
その夜、真雪の部屋がノックされた。ドアを開けた真雪の目の前に板東が立っていた。
「昨日はどうもありがとう。すごく素敵な夜だったよ。」
「はい・・・・。」真雪はうつむいた。
「食事は済んだ?」
「はい。食堂で食べました。」
「僕の部屋に、おいで。」
板東のその低い声は呪文のようにまた真雪の身体を熱くし始めた。真雪はドアを閉め、板東の後について歩いた。
「うううう、ううっ・・・・」真雪は身体を硬直させて呻いた。
「も、もうすぐ!」板東の腰の動きが激しくなった。
「ああっ!いやっ!だ、だめっ!な、中は・・・」真雪は叫び、上になった板東の胸に両手を当て、押しやった。しかし、板東は真雪の腰を抱え上げ、容赦なく自分のものを真雪の奥深くまで押し込んだ。
「い、いや・・・」真雪は力無く声を発した。
うっ!板東の動きが止まり、同時に男の欲望の迸りが、真雪の身体の奥深くで弾けた。
個室の狭いベッドで板東は真雪に身体を押し付け、はあはあと荒い息を繰り返しながら重なった。真雪は板東から顔を背け、表情を失ったまま目をつぶっていた。始めから終わりまで、彼女はやはり何も感じることができなかった。快感も安心感も温かさも・・・・。嫌悪感さえ。
「今夜も良かったよ、真雪。」板東は真雪の髪を優しく撫でた。「ところで、真雪は、セックスの時、相手の名前を呼ばないんだね。」
「・・・・主任こそ。」
「彼のことを想像しながらイってもいいんだよ。」
「・・・・・・。」
「それとも、彼のこと、もう忘れちゃう?」
「・・・・・・。」
明くる日の晩も、板東は真雪を自分の部屋に連れ込んだ。中に入る時、その男は真雪の腕を掴み、引き入れてドアを閉めた。それまでよりも随分強引なやり方だった。
真雪は下着姿で、湿ったようにひんやりとしたベッドに寝かされた。彼女は部屋に入ってから、何一つ言葉を口に出していなかった。板東が何を訊いても返事すらせず、生気を失った瞳でただ白い天井をぼんやりと見ているだけだった。
板東は前の日の晩と同じように、自分だけさっさと着衣を脱ぎ去り、全裸になった。
「明日で実習、終わりだけど、また会ってあげるよ。真雪。」板東は真雪の脚にざらついた自分のそれを絡ませながら、低い声でゆっくりと言った。真雪にはその男の声は、もはや乾いた、無機質なものとしか感じられなくなっていた。
「・・・・・・。」
「僕の携帯番号、知ってたよね。アドレスも。呼べばいつでも君を抱きに行って、イかせてあげるから。僕もいっぱいイかせてもらうけどね。」ふふっと笑って板東は真雪のブラに手をかけた。「今日もフロントホックだね。助かるよ。」
ホックはすぐに外され、真雪の乳房が解放された。板東は、露わになったそのふたつの膨らみを見つめた。真雪は小さく震えながら目を閉じ、息を止めた。
「よく見るとかぶりつきたくなるような豊満なおっぱいだね。今夜は、ここも可愛がってあげようかな。」板東がにやにや笑いながらそう言って右の乳首に指を触れさせた途端、「龍っ!」真雪は小さく叫び、胸を両手で押さえてかっと目を見開いた。そして出し抜けに起き上がり、板東の手を払いのけて身を離し、ベッドを降りた。
「真雪、どうしたんだい?いきなり・・・。」
真雪は脱いだ衣服を焦ったように身につけ始めた。
「もう部屋に戻るのかい?僕はまだ真雪のカラダを味わっていないよ。」板東はベッドの上から戸惑ったように言った。
真雪は手を休めることなく、元着ていたスウェットで自分の肌を覆い隠していった。
「君も気持ち良くなりたいだろう?真雪。」
「板東主任、」ようやく真雪が、それでも小さく口を開いた。
「何だい?真雪。」
服を着終わった真雪は板東から顔を背けて力なく言った「お願いです・・・。あたしの名前は、もう口にしないで下さい。」
「え?」
「あたしのことは、もう思い出さないで!」真雪は叫んだ。「もう二度と!」
「真雪?」ベッドから降りた全裸の板東は真雪の肩にそっと手を置いた。「やめてっ!」真雪はその男の手を振り払った。
「あたしは今後、あなたとお会いすることはありません!絶対に!」彼女は涙ぐんだ目で板東の顔を睨み付け、言い放った。
「そんなこと言わずに。ほら、甘い時間を、」
「さよならっ!」
ばんっ!真雪はドアを閉めて出て行った。