実習-2
二日目の実習で、実習生はマンツーマンでペンギンやイルカなどに与える餌の調合の仕方を教わった。真雪には主任の板東がつきっきりで指導した。彼は優しく彼女にいろいろなことを教え、実際にやらせてみては褒めた。真雪はその日とても充実した気持ちで夜のシャワーを浴びた。
部屋にはすでにシャワーを済ませたユウナが待っていた。
「いいなー、真雪、板東主任に一日くっついていられて。」彼女はパック入りのカフェオレのストローを咥えた。
「教え方がすっごく上手なんだよ、板東主任。」
「そうでしょうね。そう見えるもん。」
「自信がついた。動物を相手にする仕事に就く。」
「で、他に何か言われた?主任に。」
「『君はなかなか筋がいい。今度ゆっくり話したいね。』って言われた。」
「いいなー!将来あんな人と不倫したい、あたし。」ユウナが言った。
「結婚もまだなのに、不倫のこと考えるなんておかしいよ。」真雪が笑った。
「あんたはどうなの?」
「え?」
「板東主任と不倫したい、って思わない?」
「ふ、不倫じゃないでしょ、あたしたちまだ独身なんだし。」
「龍くんがいるじゃん。あんたには。」
「大丈夫。龍そっちのけでついていったりしないよ。あたし。」
「そりゃそうだよね。ごめん、わかりきったことだった。」
その晩、ベッドに入り、灯りを消した真雪は、冬だというのに自分の身体がやけに熱く火照っているのに少し狼狽した。そしてなかなか寝付かれず、何度も寝返りをうった。
幾度となく身体の向きを変えていた真雪も、夜が更けてうとうとと眠り始めた。
−−−遠くで龍がこっちに向かって手を振っている。真雪も同じように手を振りながら龍のいる方に駆け出した。しかし、なかなか彼に近づけなかった。いつの間にか彼の横に制服姿の女の子が立っていた。その子は龍におにぎりを手渡した。龍は笑顔でそれを受け取った。そして龍は彼女の肩に手をかけ、真雪に背を向けてその子と二人で歩き出した。真雪はその場に立ちすくみ、去って行く二人の後ろ姿を見続けた。
三日目の実習はイルカの調教だった。数人いる実習生の中から代表で真雪が板東に呼び出され、ウェットスーツに着替えさせられた上に、イルカと一緒にプールの中に入らされた。
「いいなー、真雪。」
イルカのプールでは、イルカへの接し方を板東が直接手を取って教えた。残りの実習生はそれをプールの上から見ているだけだった。真雪と同じようにウェットスーツ姿の板東は、真雪の身体を支えながら、イルカとのふれあい方を教えた。彼の手が時々、真雪の背中や脚に触れた。ウェットスーツ越しのその感触が真雪の身体を少しずつ熱くした。
その晩、真雪は龍に電話を掛けた。どれだけ呼び出しても彼は出なかった。着信履歴を見ればすぐに掛け直すだろう、と真雪は思って、そのままシャワーを浴びに行った。
シャワーから帰ってケータイを見た。龍からの着信があった形跡はなかった。真雪はつまらなそうにベッドに仰向けになった。昨日と同じように、自分の身体が熱くなっていた。しかも、昨日は感じなかった下腹部の疼きを今日は伴っていた。真雪は昼間の実習を思い出していた。板東の手の感触が、まだ背中や脚や、胸に残っている。真雪の手は、自然と自分の股間に伸びていた。