紅葉よ、紅く染まれ。-1
『寝てるの?』
どこからか聞こえたその声に、要は閉じていた瞼をゆっくりと開いた。
誰もいない。
「………誰?」
『ここにいる』
上から聞こえた。
要は枕にしていた鞄から頭を起こし、頭上を見上げる。
紅く染まった紅葉。
そして、また視線を戻すと、そこには見知らぬ少年がいた。
『こんばんは』
「……こんばんはー」『………名前は?』
「…かなめ」
眠くてボーっとしている頭で、そう答えた。
何故か少年は、少し驚いたような顔をしていたが、それはすぐに嬉しそうな笑みへと変わっていた。
「かなめ、…そうか」かなめ、少年が、どこか嬉しそうに呟く。
要が小さく首を傾げる。
こんな人、学校にいたっけか。
要はぼんやりしながら、そんな事を思っていた。
小さな風がふき、少年の赤い髪が、風にゆれる。
紅葉の色だ。
「かなめ」
突然名前を呼ばれた。「なに」
「ひとつ聞いていいか」
「なにを」
「要は、『家』に帰らないのか?」
「……………へ?」
要は眉をひそめた。
ぇえっと、と空を見る。
無数の星が瞬く、漆黒の空。
そういえば、少し肌寒いような気もしてくる。
風は冷たい。
何度瞬きしても、空は暗いし黒い。
「………夜」
だよ、ねぇ、と少年の目に問う。
少年は頷いた。
「……くしゅっ」
くしゃみをした。
くしゅっ、くしゅっ、と連続になる。
……
ようやくくしゃみが止まった時、要の目が覚めた。
「夜ッ!?!」
腕の時計を見る。
九時三十九分。
十分に遅い。
「こんな時間!!??はやく帰らなきゃ…!!!!」傍らの鞄を持って、要は走りだした。
こんな遅くに帰ったら、親になんて言われるかわからない!
校門をでる時、要は一度だけ後ろを振り返ったが、先程の少年は、もういなかった。
「くしゅっくしゅっ!……ぐぅ」
次の日。
朝、だるさと頭痛を感じてはかった熱は、39.6度。
長い間夜風にさらされていたせいか、要は風邪をひいてしまった。
「ぅぅ…」
寒いし暑いし鼻水でるし…。
風邪なんか嫌いだ。
(鼻水と頭痛と気持ち悪いのなくなれば好きになれるかもだけど)
んな事あるわけない。
昨日は、親にとっても怒られた。
何をしていた、と聞かれ、答えられなかったのもその原因だろう。
……寝てたなんて、言えるわけないよぅ。
「ぅう………」
まだ冬でもないのに、こんな寒い。
風邪なんて反則だ。
などと、意味不明な事を考えてしまうほど、要の思考は壊れかけてきていた。
ふと、思いだす。
「(……あの男の子…)」
紅い髪をした少年。
あれは誰だったか。
紅い髪………完璧校則違反だ。
赤髪の生徒がいるって噂もないし、
同じ学校の生徒ではないはずだろう。
「それにしても…、きれーな赤だったなぁ……」
瞳は深い紫色だった。
すいこまれそうに、
深くて――――
「Σハッ!!!?私何考えてんの!?ポエマー?詩人!?しかも才能ナシ!?うわ恥ずかしぃ……」
要はきゅううぅ、っと布団にもぐりこんだ。
うぁあああぁ……
何故か罪悪感。
(それにしても……気付いていたなら起こしてくれればよかったのに!そうしたら私だって風邪をひかずに…!)
要の思考回路は、とうとう崩壊した。
「ぅうー、意地悪い意地悪い意地悪すぎだよーー!なんで起こさなゴホゴホゴホッ!!!!」
叫んで、むせる。
喉痛いし……っ!
(風邪なんて大ッ嫌いだーー!!!!)
要はもう夜に外で眠らないと、かたく心に誓ったのであった。
続。