『季節の終わりに。』-1
吐く息が白くなくなったとか
朝、起きるのがそんなに辛くなくなったとか
そんな所から、この季節の終わりを知る
季節の終わりに。
学校の帰り道の途中
ゆるい坂道を登っていたら、うっすらと汗ばんだ
そういえば心なしかいつもより暖かい
吹き抜ける風も、どこか穏やかなぬくもりを持っていて、ほんのりと人々の心をときめかせる
この季節に終わりが近づいている事を知って、なぜだか時の流れが急に速くなったように思う
冬は寒いから、好きじゃない
それでも、春の訪れを知り噛み締めることができるのは、この厳しい寒さがあるからに他ならなくて
新しい季節を待つ喜びを感じることができるのは、幸せなことだとか思ったり
冬が終わる 春がくる
世界を色付かせる季節が、すぐそこに
やはりこの風のせいだろうか、人々は新しい季節の気配に、そわそわとどこか浮き足立っているように感じる
そんな中で一人だけ過ぎ行く季節に置いて行かれるような、そんな焦りを感じ、いやに綺麗な一人の夕暮れに寂しさがぽつんと浮かび上がる
視線を下ろすと、坂の頂上からは街が一望できた
過ぎる日々は名残惜しかった
そう思い、振り返ってみる今日までの事
繰り返される毎日の中で
拾ったもの
落としてきたもの
掴んだもの
失くしてしまったもの
そのどれもがキラキラと眩しくて
どうしようもないほどに切なくなってしまう
少しずつ朱くなる空では、相変わらずゆっくりと雲が流れていく
何一つ残さず掻き消されて、いつかは感じられなくなってしまう冬の気配と共に
嗚呼。
嗚呼。
いつもの曲がり角が見えてきた
ここを左に曲がれば家はすぐ
道の真ん中で立ち止まる
見上げれば、やはりちぎれてただ流される雲が見えた
それは遠く街を見下ろして、二度と会うことのないものたちをも、
流していく
消していく
嗚呼、また。
流れる。 ち ぎれる。
一つ息を吐いて
右に曲がる
夕方の白い月が照らすから
少し遠回りをして帰ろう
冬にさよならを言うために
春を探しに行くために
さよなら こんにちは