卒業-5
それから雨の日を除き、朝あたしの鍛錬が終わるとタケシの用意している麦茶を飲みながら会話するという事が日課になってきた。
他愛もない会話ばかりだが、タケシは自分のことについてほとんど語ろうとしない。
話している間は穏やかな顔をしているが、ふとある時に、洞穴のような目をしている瞬間を感じる。
あたしも、こういう目をしていた時期があった。
その時期のことは、あまり思い出したくはない。
あたしは、こんなとこに通って、君は何か楽しいのかと聞いてみた。
「ショウコさんは何か大きなエネルギーを持っていて、それを見ていると元気になれそうな気がするんです」
タケシはこういう風に答えた。
彼の言う大きなエネルギーを自覚したことは無いが、何かしら好感は持たれているようだ。
大きなエネルギー、か。
今のあたしは、所詮はヤクザの情婦以外の何者でもない。
だが、それ以前のあたしの過去は、それ以上に無残なものだったかもしれない。
思い出すと、心の中に黒々としたものが沸き上がって来るので、あたしは考えることを止めた。
朝に毎日体を動かすのも、その黒々としたものを追い出したかったからでもある。
そんなエネルギーは、タケシが言うほどまともなエネルギーではないのだ。
タケシが、どこにでもある銀色の頑丈そうな水筒を片付けている。
「それじゃ、ショウコさん、また明日」
「ええ、また明日」