卒業-3
あたしは軽いトークをしているつもりだったが、少年にとってはそれが何か強烈なプレッシャーに感じられたのか、頭をペコペコ下げながら少年は自転車に乗り何処かに走り去った。
あたしと話すのがそんなに嫌かしら?
年寄りは大喜びなのに……少年に傷つけられたような気がして少し腹立たしい。
あの逃げっぷりからすると、もうここには来ないかもしれないな。
それはそれでいいか。また、静かに鍛錬出来るようになるというものだ。
そう思っていたが、翌日少年は何事もなかったように、また公園に訪れた。
小心者なんだが、図太いんだか……。あたしは少し呆れていた。
そして、鍛錬を終えると、また少年の座るベンチに歩み寄る。
「君ねえ、あたしに何か用事なわけ? 昨日は逃げちゃうしさぁ」
「え、いや、その、昨日は、ごめんなさい……」
「別に謝んなくていいけど……あたしってそんなに怖い?」
「い、いや、いやいやいや、そんな事は、ないです。いや、少し……かな。すいません」
少し怖いのか……あたしは内心ガッカリした。
喧嘩とか大好きだけど、やはりそういうのが顔に出ちゃうのかしら。
鏡の前で笑顔の練習でもしようか。
しかし、この少年は上背はあるものの、よく見れば小動物のように優しい顔をしている。
イケメンとは少し違うが、草食系とでも言うのか、その系統の女からは支持されそうな顔立ちをしていた。
「それで、最初に戻るけど、あたしに何か用?」
「い、いえ……用は、ありません。新聞配達の帰りになんとなく公園に寄ったら、お姉さんがダンス……のような事をしていたから、ただ見ていたんです」
「へぇ、新聞配達してんだ、偉いのね。昨日そう言えばいいのに」
「は、はぁ……でもなんか……ちょっと怖くて」
「こ・わ・く・な・い……って言ってるでしょ? うん?」
「ごっ、ごめんなさいっ!」
あたしは顔を少々こわばらせながら笑顔を作り、少年を見つめた。
何か意地でもこの少年と仲良くならなければならないような気がしてくる。
「まあいいわ。ねぇ、君、名前何て言うの? あたしは、ショウコでいいわ」
「あ、あの、タケシって言います。すいません……それで、あの」
「なあに?」
「僕、またここに来て、いいですか?」
「あたしを見に来るってこと?」
「は、はい……ごめんなさい」
「そうね……別にあたしの公園じゃないし、来るなと言う権利は無いわね」
「そ、それじゃあ、見に来ても……」
「でも、あたしは、只見されるのは好きじゃないの」
「え!? あの、その、それは……ちょっと今、財布持ってなくて、すいません」
「タケシ君……」
あたしは少々自分が嫌になった。
これでは、あたしが恐喝犯ではないか。いや、確かに只見は嫌だと言ったが……。